研究課題/領域番号 |
15H03540
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内橋 貴之 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一分子イメージング・ナノ計測 / 走査型プローブ顕微鏡 / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
前年度に室温から45℃まで温度制御可能な高速AFMを製作し、脂質二重膜の流動性の観察で動作確認を行った。しかしながら、昇温時にカンチレバーホルダーの構成材料の熱膨張に起因するドリフトによって観察範囲が大きく変化するために、昇温時の試料の挙動を連続的に観察するのが困難であるという問題があった。この問題を解決するために、昇温ホルダーの熱膨張を各部位で計測し、ドリフトフリー計測に最適な昇温ホルダーのデザインと構成材料の検討を行った。昇温ホルダーの主要構成材料を熱膨張係数が極めて小さいインバーに変更し、かつ、溶液プールとITOガラスとの接着方法を最適化することで、材料間の熱膨張変化による歪みを最小限にすることができた。これらによって、室温から45℃までの昇温時に連続的にほぼ同一箇所を高速AFMで観察できるようになった。このシステムを用いて六量体ATPaseであるFliIの観察を行い、ATPの加水分解による構造変化の観察を試みた。しかしながら、当初想定されたような六量体中プロトマーの構造変化は観察されず、高温では六量体が容易に解離する様子が観察された。このことから、FliIの構造変化を観察するためには六量体の安定化が必須であることが分かった。また、昇温システムを時計タンパク質であるKaiCとKaiAの結合解離過程の観察に応用し、KaiCによる概日周期の温度補償性について調べた。その結果、KaiCとKaiAの結合および解離が温度に依存して変化することが明らかになった。すなわち、昇温時にはKaiAがKaiCに結合する頻度が増すと同時に解離速度も速くなり、Kaiタンパク質間の相互作用において、結合および解離速度がトレードオフの関係にあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昇温制御による高速AFM観察は安定にできるようになり、タンパク質への応用も可能になった。しかしながら、当初予定していた主なターゲット試料であるFliIについてはATPの加水分解に伴う構造変化は観察できなかった。また、室温以下の低温で観察するシステムの開発は本年度で完了する予定であったが、進捗が遅れているため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は4℃までの低温観察が可能なセルの作成に注力する。ペルチエ素子内蔵のカンチレバーホルダーを製作し、低温観察を実現する。ペルチエ素子の放熱側にはヒートシンクを設け、放熱によるカンチレバーホルダー土台の温度上昇を防ぐことで、熱ドリフトによるAFM観察範囲の変化を最小限にする。この方法で低温制御が安定に動作しない場合は、AFM装置全体を既存の低温室に設置することも検討する。一方、昇温ホルダーは既に完成しているので、高温でのタンパク質動態観察への応用を積極的に進める。Fliに関しては、前年度に引き続き構造変化の観察に向けた実験を行っていく。高温では六量体が容易に解離することが分かったので、基板の化学修飾によりFliI六量体の基板への吸着を強固にし、六量体の解離を抑制する方法を検討する。また、KaiCによる概日周期に関して、温度補償性の分子機構を明らかにするために、KaiA-B-Cの相互作用の温度依存性を詳細に検討する。さらに、すでに室温で構造変化の観察に成功している、回転モータータンパク質であるV-ATPaseの構造変化にも昇温ホルダーを応用していく。
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