研究課題/領域番号 |
15H03542
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
珠玖 仁 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (10361164)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 走査型プローブ顕微鏡 / 液液界面 / 遺伝子発現解析 / 組織モデル / 胚性幹細胞 / 分化誘導 / イオンコンダクタンス / 電気化学 |
研究実績の概要 |
近年、1細胞分析が高感度化・ハイスループット化し、大腸癌患者の実組織試料を用いて、1細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析が報告されている。しかし現行法では、組織試料から1細胞分析を行う際には高性能セルソーターによる細胞分取が不可欠であり、組織試料の中での細胞個々の位置情報が失われてしまう点が問題であった。本研究では、走査型プローブ顕微鏡により組織モデルの高解像度画像を取得し、標的細胞から低侵襲的に極微量サンプルを高精度に回収して網羅的遺伝子発現解析をおこなう装置システムの開発を目的とする。 1) 1細胞回収探針の開発:水相-有機相2ch多機能ナノピペット探針を作製し、水相バレルで観測するイオン電流をフィードバック信号に用いることで、生細胞の高解像度の走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)像を取細胞得した。単一の生きた線維芽細胞のSICMイメージングを取得した後、画像上の任意のポイントを指定し、多機能ピペット探針の有機相側に電位を印加しmRNAを回収することに成功した(電気化学シリンジ)。核近傍と細胞周縁部から細胞質を回収し、定量PCRにより遺伝子発現を定量化した。マウスES細胞、ES由来分化誘導細胞、ヒト乳がん細胞MCF-7、ヒト血管内皮細胞HUVECから遺伝子回収に成功した。電気化学シリンジの特性を明らかにするために、電流‐電位曲線を取得し、光学顕微鏡およびCCDカメラ観察下の幾何体積の算出とPCRによる核酸総量との関係を明らかにした。回収操作の効率向上を目的とし、水相と有機相を1本のピペット内に積層する方法を考案した。 2) 2本の炭素電極を集積化した探針を用い、マウスES細胞由来の血管新生モデルの局所的網羅的遺伝子発現解析を検討した。電極間に電圧パルスを印加し局所の細胞片を回収した。定量PCRおよびハイスループット定量PCRにより遺伝子発現を定量化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)本研究の計測システムの操作フローがほぼ完成した。即ち、高解像度画像を取得、標的細胞からの低侵襲的極微量サンプル回収、定量PCRによる複数種類の遺伝子発現解析が可能となった。核近傍と細胞周縁部では、ハウスキーピング遺伝子GAPDHの発現量に違いがなかった。一方細胞骨格ACTB遺伝子の発現量は核近傍よりも細胞周縁部のほうが多いことが確認できた。さらに穿刺後の細胞活性を蛍光染色で判定した結果、細胞周縁部の穿刺後100%の細胞が生存していた。核近傍の穿刺後も80%近くの単一細胞が生存しており、SPMをプラットホームとする局所遺伝子発現解析法の低侵襲性が示された。有機相の電解質濃度を最適化すると水相/有機相界面の移動特性を安定化できることを見出した。 2)2本の炭素電極を集積化したDouble barrel carbon Probe (DBCP)を用い、血管新生モデルの局所的網羅的遺伝子発現解析を検討した。血管新生の再血管先端に位置し伸長方向を制御するTip Cell、それに後続して血管管腔を形成するStalk Cellの存在を免疫染色によりあらかじめ確認した。マウスES細胞由来の胚様体をコラーゲンに包埋しVEGF添加低酸素下10日培養した試料を血管新生モデルとした。電極間に500 V, 10usecの電圧パルスを印加し局所の細胞片を回収した。定量PCRおよびハイスループット定量PCR (BioMark HD, Fluidigm) により遺伝子発現を定量化した。胚様体から進展する血管部の領域では血管内皮マーカーに加え、Tip Cell, Stalk Cellのマーカー遺伝子の部位特異的発現を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
1) 超並列PCR: 2ch多機能ナノピペット探針およびDBCPを用い、サンプリングが効率的に行えるよう回収工程を適宜改善していく。ハイスループット定量PCR (Fluidigm BioMark HD system単一細胞評価システム) により、mRNAの種類と存在量を一網打尽に解析する。 2)核酸タグ・インジェクション法:1細胞分析の精度を向上させるために、核酸標識法を検討する。mRNAを捕捉する際に用いられるポリT配列プライマーに配列長100塩基分のインデックスを連結した核酸タグを合成し、1細胞ごとに蛍光色素と種類の異なる核酸タグを同時にインジェクションする。蛍光色素により、神経細胞のような形状の複雑な細胞の境界を明確化し、核酸タグにより、PCR操作工程における個々の1細胞試料を区別して分析・定量することが可能となる。 3)イメージングの最適化:SICM画像は、水相チャネルのみならず、有機相チャネルのイオン電流をフィードバック信号に用いた場合でも取得可能であることが分かった。しかしイオン電流のSN比は水相チャネルの方が良好であり、機構解明が必要である。電解質濃度や探針口径を変化させ、画像取得条件の最適化を検討する。昨年度に引き続き水相と有機相を1本のピペット内に積層する方式により、インジェクションおよびmRNAの捕捉の作業効率向上を検討する。有機相の電解質濃度を最適化し操作の再現性を高める。
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