本研究では、金以外の電極を用いて、単分子接合の熱電特性評価を実施することを目標とした。そこで、まず前年度までに開発した1分子熱電計測用マイクロヒータ・熱電対組込み型MCBJ素子のナノ接合部の材料として、金、銀、銅、アルミ及び白金を試した。その結果、銀及びアルミでは、ナノ加工時における金属蒸着やリフトオフは問題なく実施できるものの、デバイス作製工程の最終段階で行うポリイミドの掘削時における酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング過程で、著しい表面酸化が生じ、接合が絶縁化したため、1分子計測に供することができなかった。一方、金と白金は当該ドライエッチングに耐え、銅は歩留まりは極めて低いものの、素子作製は可能であった。作製したMCBJデバイスを用いて、金及び白金電極を用いた単原子・分子接合の熱電計測を室温・真空下で実施した。熱伝導度計測では、金属ナノ接合の狭窄部が小さくなるにつれて、熱伝導度が徐々に低下する傾向が観測された。さらにデータを詳細に解析した結果、接合の大きさが数原子サイズになると接合熱伝導度は接合電気伝導度に対してほぼリニアに変化することが分かった。金属接合における熱伝導は、電子による熱輸送が支配的であると考えられることから、金属原子サイズ接合においてもWiedemann-Franz則が成立することが示唆された。また、同様の測定により単分子接合の熱伝導度をデータから見積もったところ、その値は数十pW/Kであった。以上のように、ナノ加工プロセス条件による制限のため、限定的であるものの、金以外の電極を用いた1分子熱電計測が実施可能であることを実証した。
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