研究実績の概要 |
本研究は,MEMS技術をベ-スに,非破壊で水分・栄養物質動態をin-situで観察可能な超小型「維管束(道管流/師管流)センサ」を実現し,作物の生産性の向上や高品質果実の安定生産に具体的に寄与すること,更にセンサ情報を統合し,植物の生育に最も重要となる作物や果樹等の新梢末端や果柄等の細部を含む植物全体での時空間的な水分・栄養物質動態の測定を行うことを目標としている. これに向けて,道管流センサについては,昨年度の電気伝導率センサ(栄養物質動態センサ)の試作結果を受けて,センサの性能向上と適用植物拡大を狙いに,これまでの直径φ0.1mm,長さ0.3mmのプロ-ブに対して,直径φ0.1mm,長さ約1mm程度のプロ-ブ製作に成功するとともに,プロ-ブ最表面にAuメッキを形成することで(Au薄膜のみに比べ,約5倍程度表面積が増大),電気伝導率の測定感度向上を実現した.また,センサの高機能化として,これまで研究を進めてきた水分動態センサと栄養物質動態センサとを1チップ上に,機能集積化できる見通しを得た.更に,製作したセンサを用いて,人工気象器内で,植物環境(温度,湿度,CO2,光量)と植物生理(流速)との関係を把握する基本実験を進めた. また,師管流センサについては,昨年度のセンサ各部の動作検証結果を受け,今年度は,改良試作を繰り返してプロトタイプを完成させ,疑似植物実験系において,(1)流れの向きの測定,(2)微少流速の測定(流速の測定レンジ:0~150μm/s,分解能:5μm/s以下),(3)道管/師管の位置検出(電気伝導率として,0~10mS/cmの範囲の計測),(4)師管液の採取が可能なこと等を明らかにし,提案した師管流センサの有用性を実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,まず道管流センサについては,栄養物質動態センサの高性能化とこれまでの水分動態センサと栄養物質動態センサとの1チップ上への機能集積化が,予定通りできたこと,更にモデル植物を用いた植物環境制御下での水分動態の特性評価については,例えば,光照射のあり/光照射のなしに対応して,一般的な流速の日変化と同様の応答を示すことを明らかにする等,ほぼ予定通りの進捗が得られた. また,師管流センサについては,(1)温度センサの高低から,流れの向きの計測,また(2)グラニエ法を利用した流速測定,(3)道管流/師管流に相当する電気伝導率の高低から,維管束の位置情報計測の実現可能性,更に(4)師管とほぼ同寸法のSu-8樹脂製管路構造の形成とその表面処理法の工夫(酸素プラズマ処理による濡れ性改善)により,液の注入・排出の実現性確認等,センサに搭載した各機能の動作検証に成功した. 以上のことから,本研究課題の進捗状況は,「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
道管流センサに関しては,モデル植物を用いて,(1)微少流量測定,(2)高速応答性,(3) 非破壊測定, (4) 測定再現性,(5)長期安定性等について総合的評価を行ない,提案したセンサシステムの有用性を検証する.また,農場で普及が始まったフィ-ルドサ-バ-(土壌センサや環境モニタリングセンサを搭載)と本センサシステムを組み合わせた実験を推進し, 植物の新梢末端等の細部での水分,栄養物質動態測定が,作物の収量増大等に極めて有用なこと等を明らかにする. 師管流センサに関しては,モデル植物を用いて,(1)流れの向きの測定,(2)微少流速の測定,(3)道管/師管の位置検出,(4)師管液の採取が可能なこと等,詳細かつ具体的なデ-タを取得する. 更に,これら超小型の「維管束(道管流/師管流)センサ」を統合し,植物の新梢末端や果柄等の末端・細部を含む植物全体の水分動態測定や栄養物質動態の測定を試みる.
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