研究課題
平成28年度は、高精度X線回折および電子線回折を用いた多層膜試料の詳細な構造解析を行い、また微細加工により素子化した試料の電気磁気効果を調べることに注力した。構造解析からスパッタ法での製膜条件は安定しており、適切な基板、Biを僅かに減らしたスパッタターゲット、長時間のプレスパッタ、適切な酸素ガス流量とすることにより菱面体晶構造のBFOをエピタキシャル成長させることができることがわかった。そこで、多層構造をフォトリソグラフィーを用いて素子化し、磁化を電界制御するための実験を行った。ここでは、菱面体晶構造のBiFeO3を確実に作製するために、BiFeO3の膜厚を120 nmと厚くして実験を行った。反強磁性交換結合方向を揃えるため[100]に10 kOeの外部磁場を印加して200℃の真空中で熱処理を行った。いずれの強磁性材料(Co、Fe、NiFe系ソフト材料、CoFe)でも反強磁性交換結合は観測されたが、シフト量は150~200 Oeであった。そこで、ゼロ磁場での磁化のスイッチングを観測するために保磁力の小さいNiFe系ソフト材料を選択した。膜面垂直方向へ弱電界を印加したところ磁化が反転することをKerr効果により確認した。Kerr効果のスポット径は数十ミクロンであるため平均的な磁化反転を観測していることになる。これはトンネル接合に素子化しても巨視的に電気磁気効果が観測される証拠であり、本研究にとって有意な成果である。また、電界による磁化反転の方位依存性を測定したところ、BiFeO3の菱面体構造で理論的に予測されている電気磁気効果であることが明らかとなった。巨視的な実験方法により理論で予測される電気磁気効果を本研究ではじめて実証した。外部磁場により自発分極を制御する、電気磁気効果について試験的に測定を行ったところ、ノイズレベルが高く評価が困難であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は当初に計画していた実験計画を順調に遂行することができた。巨視的な観察手法であるKerr効果を用いて電気磁気効果を測定することに成功し、さらに電気磁気効果の前後にて外部印加磁場の方位依存性を系統的に測定して自発分極方向とスイッチした磁化の平均方向の関係を調べたところ、電気磁気効果が菱面体晶構造を仮定したときの理論予測と一致することを明らかとした。また、理論的な理解を深めるための基礎となっているBiFeO3膜の結晶対称性については、高精度な電子線回折実験と構造因子計算によるシミュレーションにより確実に決定しており、解析の精度を高く実験を遂行することができた。予定されていた実験結果を得られたことに加えて、1年間を通して安定して製膜装置、微細加工装置および透過型電子顕微鏡を稼働させることができたことも順調に研究が進められた理由の1つである。平成29年度に予定されている電気磁気効果のうち外部磁場による分極操作の実験についても平成28年度内に試験的な実験を行うことができたことから、次年度への指針が明確となったことも「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した理由である。
平成28年度の後半において、電気測定系の改善が必要であることが明らかとなった。その理由は接合素子が電気的に高抵抗であることが理由として挙げられる。従って、下部電極をLaドープSrTiO3からSrRuO3もしくはLaSrMnO3などの導電性電極へ変更する必要がある。既にLaSrMnO3の製膜条件を最適化することに成功しており、平成29年度は多層構造を作製する準備ができている。さらに、測定系のケーブル、コネクタ、分岐器などの種類、配置、長さなど、ノイズレベルを低減させる工夫の余地があるため、1つ1つ着実にノイズ源を調べていくことを今後の研究の推進方策とする。このように、次年度へ向けた問題点の抽出はできており、平成29年度の研究の推進方法は明確となっている。
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