研究課題
本研究では、有機強誘電体を対象として、フェムト秒レーザー励起による高効率・高強度テラヘルツ電磁波放射現象の探索、また放射したテラヘルツ電磁波を利用して、従来の実験手法では測定できない分極イメージング法を開発し、強誘電ドメイン制御の可能性を検討することを主要な目的としている。今年度、低温 (10K)にて実験が行える冷凍機と前年度までに整備したフェムト秒レーザー励起テラヘルツ放射光学系を組み合わせた測定系を新たに構築した。その結果、室温有機強誘電体だけでなく、室温以下で強誘電性を示す有機物に対しても、テラヘルツ電磁波放射現象の探索が行えるようになった。その結果、分子間の電荷移動によって電子が長距離秩序することで強誘電性が発現している新しいタイプの電子型有機強誘電体からのテラヘルツ放射現象を見出した。特に、二次元的な伝導層を形成するα-(BEDT-TTF)2I3において、発生効率の高いテラヘルツ放射現象を見出した。また、テラヘルツ帯の光学スペクトルなどの測定を行い、α-(BEDT-TTF)2I3のテラヘルツ放射機構は、従来の光整流効果ではなく、光誘起絶縁体金属転移に伴う分子振動の励起によるものであることを明らかにした。このような新しいテラヘルツ放射機構を見出したは、予期していなかった発見である。電子型有機強誘電体では、しばしば電圧印加によって、電気抵抗が数桁減少する負性抵抗現象や非線形伝導が観測され大きな注目を集めている。このメカニズムを明らかにするためには、従来行われている伝導率など物理量の平均値を測定することだけでは不十分で、結晶全体に渡るドメインを可視化し、不均一性などマクロな構造物性と非線形伝導現象との相関を明らかにすることが必要不可欠である。今年度、テラヘルツ電磁波放射現象を利用し、非線形伝導下における強誘電ドメインのダイナミクスの観測に初めて成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の目標に掲げていた、低温で測定できる新たなテラヘルツ電磁波放射測定系を構築し、新しいタイプの電子型有機強誘電体からのテラヘルツ電磁波放射の観測に成功しただけでなく、電子型有機強誘電体の電場印加下(非線形伝導下)における強誘電ドメインの可視化を行い、非線形伝導現象が強誘電ドメインの試料中のボリュームによってスケールできるなど、マクロな構造物性と物性との相関を明らかにした。
28年度で見出したテラヘルツ電磁波発生を利用した新しい強誘電ドメイン観察手法を使い、強誘電ドメイン制御に関する研究を進める。さらに、汎用性の高い、反射配置かつ励起波長可変テラヘルツ電磁波放射測定系を新たに構築し、有機強誘電体や他の物質系においてもテラヘルツ電磁波発生現象を探索する。
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Physical Review Letters
巻: 118 ページ: 107602
10.1103/PhysRevLett.118.107602