研究課題
独自に開発した高品質InN結晶成長技術(DERI法)を利用して、InGaNの非混和性を積極的に利用した極微ナノ構造および界面の制御を行い、InNおよびInGaNが持つ材料のポテンシャルを極限まで引き出し、デバイスとして応用できる、革新的材料基盤技術開発を行うことを目的として研究を進めている。昨年度は転位とリーク電流の関係を明確にする観測手法、結晶高品質化を図る上での詳細なDERIサイクルの制御法につき検討を行った。本年度はこれらの成果の上にたち、らせん転位とらせん状ステップの存在するGaNテンプレートの表面構造とリーク電流の関係を詳細に検討した後に、テンプレート上にInGaNをDERI法により成長し、InGaNのリーク電流に対する抑制効果を検討した。その結果、成長初期段階の窒素ラジカル供給量を減らしInGaNを組成分離しやすい条件に制御して成長することにより、リーク電流を抑制できることを確認した。次に高品質化のためのDERIサイクルの制御法については、表面のInが完全にInNに変化する前に、すなわち1~2モノレイヤーのInを表面に残した状態で、DERIサイクルを初期状態に戻すことにより、成長層の高品質化が図られることを追加実験により、確認した。またInNの表面に窒素ラジカルビームのみを照射し続けると、点欠陥が導入されInNの結晶性が劣化することも明らかにし、1~2モノレイヤーのInを表面に残すことにより、InN結晶へのラジカルあるいはイオンによる照射ダメージを抑制できることを明らかにした。ヘテロ界面における原子レベルでの組成制御に関しては、スプリング8のビームラインを用いた逆格子マッピングによる成長過程でのその場観察から、組成引き込み効果が重要なことを実験的に示した。
2: おおむね順調に進展している
InGaNの非混和性を積極的に利用した極微ナノ構造および界面の制御を行い、InGaNの全組成領域をデバイスとして利用可能とする上で、最も重要なのは、転位の電気的、光学的特性への影響を抑制することである。これまでの研究で、本研究で提唱したように、窒素ラジカルビーム強度を抑え、組成分離が起きやすい状態を成長の初期段階に入れることにより、リーク電流の抑制が行えることを明らかにすることができた。また成長層の結晶品質を向上させる上で1~2モノレイヤーのInを表面に常に残した状態で成長することが重要で、イオンやラジカルによる照射ダメージの導入を抑制できることがその原因と考えられるとの科学的知見も得ることができた。さらにスプリング8のビームラインを用いた逆格子マッピングによる成長過程のその場観察手法が成長初期過程の組成決定手法として有効で、転位周辺の組成決定のメカニズムに組成引き込み効果も考慮する必要があるという新たな知見も得ることができた。以上のように研究目的の実現に向け概ね順調に研究が進展しているといえるが、転位周辺の組成変調が狙いどおり行えているかどうかを確認できるまでにはまだ至っていない。
原子層レベルでのDERIサイクルの制御をより高精度に行い転位周辺の組成変調をより厳密に行うとともに、成長した結晶のナノ領域の組成評価手法についても、その確立に向け、本格的に取り組む。またArFを用いたInN表面の蓄積キャリアの制御、より高温で成長可能な窒素ポーラ面上でのInN DERI成長の可能性など量子ナノ構造の制御と高品質化に向けた検討も積極的に進め、InGaNの全組成領域をデバイスとして利用する基盤構築に向け研究を加速させたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 11件、 招待講演 3件)
Semiconductor Science and Technology
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