研究課題/領域番号 |
15H03563
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 宗俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (40432439)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化鉄 / 太陽光水分解 |
研究実績の概要 |
太陽光水分解における近赤外光応答型の半導体光電極材料として、Siを添加した酸化第二鉄(α-Fe2O3、ヘマタイト)に注目し、薄膜作製および光電特性評価を実施した。パルスレーザー堆積法(PLD法)による薄膜作製実験では、まず、Siを混合したα-Fe2O3のターゲット(大気中、1200℃で焼成)を用いα-Al2O3(110)単結晶基板上に薄膜を成長させた。その結果、Siを含むFe3O4(マグネタイト)の結晶薄膜が得られた。この薄膜は室温で金属的な電気伝導を示し、半導体光電極として用いることができない。そこで、あらたに二段階でのPLD法による薄膜成長を試みた。この手法では、第一段階としてα-Al2O3基板上にSiを含まない純粋なnα-Fe2O3の単結晶薄膜を成長させた。その後、Siを含むα-Fe2O3をターゲットとして用いて、α-Fe2O3薄膜上に膜を堆積させた。基板温度を600℃以上にすると、Fe-Siの相互拡散により、膜全体にSiが均一に分布したSi:α-Fe2O3結晶薄膜が得られた。光吸収率測定により、Si:Fe2O3薄膜のバンドギャップは1.8と見積もられ、Si添加によりバンドギャップが狭窄化することが分かった。次に、このSi:Fe2O3薄膜に金微粒子を埋め込んだ構造を作製した。この実験では金の極薄膜をSi:α-Fe2O3薄膜上にスパッタリングにより蒸着し、その後大気中で熱処理することにより、微粒子を形成した。この手法によって得られた試料は、700-850nmの波長域において金微粒子の局在表面プラズモンの効果によって光吸収が増大した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
希少金属や環境負荷の高い材料を含まない新しい光電極材料として、独自の手法(二段階のPLD法)を用いた薄膜成長によって、Si置換α-Fe2O3薄膜を得ることがでた。また、Si置換によってα-Fe2O3のバンドギャップが減少することを確認し、近赤外光応答型光電極としての応用の可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
純粋なα-Fe2O3薄膜に金微粒子を埋め込んだ電極構造では、可視~近赤外域での光吸収の増大は確認されるが、光電流は低下してしまうことが分かっている。これは、金ナノ粒子の表面プラズモンの共鳴エネルギーに対して、母体のα-Fe2O3のバンドギャップが多いため、効率的な励起エネルギー移動が起こらないためだと考えられる。これまでに得られたSi添加α-Fe2O3では、製膜中の酸素圧力と基板温度によってギャップが変わることが分かっており、また金微粒子は焼成温度によって粒子径と共鳴エネルギーを制御できることを確認しているので、今後はこれらの条件を最適化することにより、プラズモンからのエネルギー移動による光電流増大を実現することが課題となる。
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