研究課題/領域番号 |
15H03564
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
白石 賢二 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20334039)
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研究分担者 |
財満 鎭明 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (70158947)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 物質設計 / 物質創製 / 多軌道タイトバインディング法 / シリセン / ゲルマネン / スタネン |
研究実績の概要 |
シリセン、ゲルマネン、スタネンのリボン状構造体について多軌道タイトバインディング近似を用いて電子構造の計算を行った。具体的にはリボン端が1個の水素で終端されている場合、2個の水素で終端されている場合、および終端されていない場合について計算を行った。その結果シリセン、ゲルマネン、スタネンは平面構造ではなくバックルしている構造であるため、π軌道だけではなくσ軌道の寄与も無視できないため、これまでに江澤らによって報告されている一軌道タイトバインディング近似の計算では重要な電子構造の特徴を記述できないため、多軌道の扱いが不可欠であることを明らかにした。バックル構造はリボン端の水素終端にも重要な影響を及ぼす。リボン端が1個の水素で終端されている場合にはジグザグエッジ状態が出現し、2個の水素で終端されている場合にはクラインエッジ状態が出現することを明らかにした。また、シリセン、ゲルマネン、スタネンの構造がバックルしている影響でジグザグエッジ状態もクラインエッジ状態も完全な平坦バンドにはならないこともわかった。リボン端が水素終端されていない場合には、ダングリングボンドに対応する状態が出現し、グラフェンとは全くことなるバンドが出現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シリセン、ゲルマネン、スタネンのリボン構造はトポロジカル絶縁体の材料になるのではないかと大きな期待が持たれているが、これらの電子構造に関するリアリスティックな電子構造計算はこれまで報告がなかった。27年度は多軌道タイトバインディング法を用いてはじめて、シリセン、ゲルマネン、スタネンのリボン構造の電子構造についての詳細な計算を遂行することができた。さらにリボン端の水素終端の様式もシリセン、ゲルマネン、スタネンのバックル構造のために3種類考えられるが、3種類の様式すべてに対して電子構造計算を行うことができた。その結果は非常に興味深いものであると同時に、これまで報告がなされている一軌道のタイトバインディング近似で得られる結果とは全く異なるものであった。これはシリセン、ゲルマネン、スタネンにおいては、一軌道近似がよい近似となるグラフェンとは全く状況が異なることを初めて明らかにしたもので、これまでシリセン等で報告されている理論計算の結果をすべて修正する必要があることを示した。これあらの研究成果の学術的インパクトは非常に大きいと考えている。このように、これまでの知見を大きく修正する必要があることを示すことができた27年度の研究成果は当初の予想以上に進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
28年度以降は以下のように研究を進める予定である。 ①理論計算(タイトバインディング計算):27年度に得られた多い軌道タイトバインディング近似にスピン軌道相互作用の効果を加えて計算を行い、シリセンリボン、ゲルマネンリボン、スタネンリボンのトポロジカル絶縁体材料としての可能性について明らかにすると同時にその設計指針を示す。 ②理論計算(第一原理計算):シリセン、ゲルマネン、スタネンの重要な物性を現実に発現されるためにはディラックポイントがフェルミレベルを切る必要がある。そのためにはこれまで実験で実現されている金属基板上ではなく、絶縁体基板上にシリセン、ゲルマネン、スタネンを作製する必要があるが、28年度以降は絶縁体上シリセン、ゲルマネン、スタネンの原子構造、電子構造を第一原理計算で明らかにすると同時に、絶縁体上にシリセン、ゲルマネン、スタネンを作製するための指針を示す。 ③実験:理論計算で明らかとなったシリセン、ゲルマネン、スタネンの作製指針、さらには物性予言に基づいて、シリセン、ゲルマネン、スタネンの作製をまず金属基板上で実現し、さらに絶縁体基板上での作製にチャレンジする。こうして作製したシリセン、ゲルマネン、スタネンの電子物性についても測定を行い、IV族二次元系独自の興味深い物性の発現を目指す。
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