Si製のカンチレバーを用いて金属表面上に形成したシリセンを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。シリセンは、グラフェンのSi版ともいうべき構造であり、グラフェンと同様ハニカム格子を組むものの、バックル構造をとり、高い位置にあるSi原子と低い位置にあるSi原子とに分類することができる。過去の走査トンネル顕微鏡(STM)では空間的に高い原子しか観察されなかったが、AFMではハニカム格子を組む全原子を観察することに成功した。表面のSi原子と探針のSi原子との間の化学結合力によって、Si原子が可視化されたと考えられる。つまり、探針先端のダングリングボンドが近づいてボンドを形成する際の化学結合力が原子分解能の起源である。空間的に低い原子も観察することができたのは、探針との引力によって、低い原子が持ち上げながら観察されているためである。化学結合力の距離依存性のカーブを測定することによって、これまでのSi(111)-(7x7)表面のSi原子とは異なる化学環境を持つSi原子で化学結合力の比較に成功した。また、Ge基板にPt原子を蒸着することによって形成される原子細線においてもAFM分析を行った。Sn原子も混ぜて細線を形成して、化学結合力の計測を行うことによって、元々の細線がGe原子でできていることを明らかにした。電気陰性度計測の結果を用いた応用上の成果を挙げたといえる。このように、単原子の精密計測を行うことによって、様々な化学環境における原子の元素同定が行えることを実証した。
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