研究課題
次世代の高精細かつ画期的な省エネ型のディスプレイ実現のため、高移動度かつ高信頼性酸化膜電界効果トランジスタ(OxTFT)を創生することが、本研究ならびに本研究の展開目標である。本研究の具体的な研究開発の目的としては、酸化膜中の酸素原子空孔(Vo)に伴う“乱れ”に着目した基礎物性の解明であり、我々独自の“不安定Voを抑制できる酸化膜”にて、伝導の乱れと不安定Voの相関を明らかにして、新元素構成酸化膜のマテリアルデザインを確立することを目指している。これまでに単層膜の薄膜トランジスタ試作・評価によって、電荷トラップの形成密度は添加元素で制御できるものの、移動度の低下が元素添加によって低下することが、当初の予定に反して生じていることがわかったことを踏まえて、当初想定の従来の単層構造に代えて、2層複合膜の新構造での成膜組み合わせを検討した。この2層積層膜を薄膜トランジスタに加工して、学術的な新規性と実用性の高い素子の試作と評価を行った。従来の半導体膜を半分の厚さとして、この上に絶縁膜を形成する多層膜を成膜し、絶縁膜の上からソースとドレン電極を形成して薄膜トランジスタとした。この素子は、従来の半導体部位が半分であるにも関わらず、薄膜トランジスタとして充分な電流を流すことが出来るだけでなく、絶縁膜部位が薄膜の構造安定性を高める効果も得られた。さらに薄膜トランジスタとしての特性の向上を目指して、酸化インジウム膜を原子層1層づつ積層し確実に酸化反応を生じさせながら、酸化膜を造ることを試みている。
2: おおむね順調に進展している
当初予想できない薄膜特性が研究の途中で得られ、関連の知見を優先してまとめる必要が生じるなどで予定の変更は生じたが、得られた結果を踏まえて新たな構造を提案して評価することが出来たため、結果として本研究の目標である素子特性安定化に向けて順調に進捗している。
これまでに薄膜作製や電気伝導特性の評価、ならびにSPring-8実験での原子レベルでの構造解明等によって、薄膜特性の安定性・不安定性に関しての知見を得てきた。ここまで評価してきた膜は、マグネトロンスパッタ成膜での薄膜であり、膜に含まれる酸素欠損密度の制御性の向上を行ってきたことになる。これまでの酸素欠損の振る舞いを知見として、今後は薄膜をより確実に酸化させながら成膜する技術を開発する予定である。具体的には、原子層積層システム(Atomic Layer Deposition)にて1層毎の積層を行って薄膜を形成し、スパッタ膜との比較を行う。これら成膜で知見を蓄積して、塗布成膜で素子を作製出来るような技術の開発を目指していく。
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Journal of Physics D: Applied Physics
巻: 50 ページ: 25102/1-6
10.1088/1361-6463/50/2/025102