筆者は2つのフォノンが同期して生成・消失すると、フォノンのエネルギーの差分や運動量の差分を光子のエネルギー・運動量の差分と相殺出来る事を初めて示した。この過程は量子干渉であり、光吸収・放出を打ち消したり、熱振動などの擾乱を打ち消したりする事が可能である。量子的には2つのフォノンが同期して生成・消滅する過程であり、互いにもつれ合いの関係にある。 本研究は、差動2フォノン過程を用いてフォノンモード間の位相同期を行い、光の吸収・放出を制御しようとするものである。 今年度は2波長で注入同期を行うレーザーシステムを構築した。誘導ラマン散乱媒質(CVD単結晶ダイヤモンド)の2つのフォノンの差周波に相当する2波長の狭線幅レーザーで励起するシステムを構築した。2波長発振器にはVCSEL半導体レーザーを用い、これを光共振器に注入同期した。共振器内部に誘導ラマン散乱媒質を挿入し、光スイッチによりQスイッチ動作をおこない差動2フォノン励起の実験を行った。2つのフォノンの差分に相当する周波数間隔のマルチ縦モード発振を観測した。同時に、周波数間隔の逆数に相当するスパイク波形を観測し、差動誘導ラマン散乱によるモード制御を確認した。 ナノ秒のQスイッチ動作では、誘導ラマン散乱の閾値と光学損傷の閾値が近くラマン媒質や共振器の損傷が問題となった。そこでモード同期発振器の出力をフィルターにより波長選択して2波長注入同期を行い、パルス幅短縮による高光強度化を実現した。
|