研究課題/領域番号 |
15H03577
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
荒川 太郎 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40293170)
|
研究分担者 |
國分 泰雄 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60134839)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 光スイッチ / 偏光スイッチ / 微小共振器 / 電気光学効果 |
研究実績の概要 |
本研究は,マイクロリング共振器と大きな電界誘起屈折率変化特性を有する半導体ポテンシャル制御量子井戸を融合した,小型・高速動作のマイクロリング偏光スイッチを提案し,その有用性を実証することを目的としている. 今年度は,基本的な素子構造の提案とその特性解析を行った.マイクロリング共振器の導波路には,これまで開発してきた化合物半導体非対称結合量子井戸構造をコア層に有するハーフリッジ構造を用いた.結合量子井戸のTE光に対する屈折率変化がTM光に対するそれよりも極めて大きいという偏光依存性と非対称なハーフリッジ構造による偏光主軸の傾きを組み合わせる.これにより,周長約130ミクロンという小さいマイクロリング導波路において,低印加電圧で大きな偏波回転が生じることを,伝搬行列法を用いた理論計算により示した. また,2本のバスライン導波路をマイクロリング共振器に結合するための偏光無依存方向性結合器構造を初めて提案した.2本の対称構造と非対称構造が接続された方向性結合器となっており,ある程度の作製誤差であれば問題なく光結合率0.2前後で動作することも理論計算により確認した.本素子を用いれば,マイクロリング共振器の共振波長において,TE光とTM光のスイッチングが30dB程度の消光比をもって可能であることを理論的に示すことができた.動作電圧は,非対称結合量子井戸の電界誘起屈折率変化量に依るが,動作電圧を1V程度以下にすることも充分可能である. 以上のように,本研究で提案する偏光スイッチの具体的な素子構造を提案し,超高速光通信用小型偏光制御素子の実現可能性を示すことができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の最大の課題となっていた偏光回転を行う具体的な導波路構造とその動作原理,物理の解明に成功したので,概ね順調に進展していると考えている.ただし,提案する素子の小型化のためには,さらに高効率な偏波回転を行う導波路構造を追求したいと考えているので,実際の導波路構造の作製およびその評価は,当初の予定とは異なり,次年度に行なうこととした.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究において,ハーフリッジ構造導波路を有するマイクロリング共振器と偏光無依存方向性結合器の組み合わせによる基本素子構造を提案したが,次年度は,この導波路構造をさらにリファインし,試作する素子構造を確定する.特に,偏光無依存方向性結合器は,現時点では素子長が100ミクロン程度と長いため,更なる小型化を中心に設計を行う.結合する導波路の非対称性や導波路厚を最適化し,光結合率0.2前後で任意の結合率を得られるように設計する.また,非対称結合量子井戸についても,偏光スイッチ効率を更に向上させるため,偏光依存性をさらに強調する必要がある.そこで,井戸層に圧縮歪みを導入した歪結合量子井戸構造を導入する.ラッティンジャー・コーンのハミルトニアンを用いたシミュレーションを行い,層構造と歪導入量最適化を図る. 次に,設計した量子井戸構造をコア層に有するハーフリッジ構造を有する直線導波路の試作を行う.有機気相成長法により作製したエピウエハを,電子ビーム露光法および塩素系誘導結合プラズマドライエッチング法を用いた二段階エッチング法を採用する.試作した導波路の基本的な光導波特性の評価,電界印加時の偏光回転の基本動作の実証を目指す.ハーフリッジ導波路については,その複屈折性が偏光スイッチング特性に与える影響も評価する.並行して,偏光無依存方向性結合器も別途試作を行い,その動作実証を目指す.導波路間のギャップ幅の精密制御が鍵となるので,再現性のよい作製技術の確立も目指す.
|