本研究で実現を目指した光信号2値論理デバイスは,量子井戸半導体マイクロリングレーザによるインバータ素子の鋭い閾値特性を利用して,この光インバータを2段縦列に接続して2値論理を実現することを基本原理としている.このデバイスには,後段のマイクロリングレーザの発振光が前段に入射すると2値論理動作が困難になるため,後段のマイクロリングレーザは右回り発振光と左回り発振光の間で一方向にだけ強く発振する非対称発振が必要になる.この非対称発振のために初年度に,マイクロリングレーザ型光インバータの入射端側バスライン導波路に方向性結合器を介して入射端方向へ向かう光を反射させるループミラーを設けた非対称方向性発振マイクロリングレーザを設計し,その発振方向比を測定した.その結果,約7dBの非対称性は得られたものの,ループミラー部への注入電流を増加させて反射増幅率を増大させても発振方向比はほとんど変化がせず,ループミラー部とマイクロリング部の中間部分に電流を注入すると非対称発振が増強されることから,帰還光の位相制御が重要であるとの結論を得ていた.この仮説は平成28年度に実施した新しい測定法による測定結果でも裏付けられ,従来の2倍の長さの位相制御部を必要とすることが判明していた.最終年度の平成29年度は,帰還光によるインバータ動作とフリップフロップ動作の理論を構築し,また位相制御部注入電流と温度に関するデータを詳細に取得して理論と比較した結果,フリップフロップ動作とインバータ動作は帰還光の位相によって周期的に切り替わることを実験的に発見し,この現象がカー効果による振幅の非線形性と帰還光のバスライン導波路内でのファブリペロー共振に起因するバスライン結合部における位相の非線形性によって説明できることを理論的に明らかにした.
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