研究課題/領域番号 |
15H03581
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
沖野 友哉 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (40431895)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アト秒 / 電荷移動 / フーリエ分光 |
研究実績の概要 |
本年度は、フラグメント分解運動量画像計測法の開発と原理実証および、レーザー誘起音響脱離法を用いた生体分子の真空導入装置の開発を行った。 フラグメント分解運動量画像計測装置については、PLZTを用いた空間光強度時間変調装置を用いて、フラグメントイオンの飛行時間に合わせて透過光強度を単調に変化させることによって、複数のフラグメントイオン種の運動量画像の同時観測を実現するものである。開発装置を用いて、二酸化炭素分子において、アト秒パルスを照射した場合に生成する3種類のフラグメントイオンC+, O+およびCO+が同時観測できることを確認した。並行して、既存のイオン運動量画像計測装置のサンプル導入部の改良を行い、従来よりもバックグランド信号を1桁低減することが可能となった。 一方、レーザー誘起音響脱離法を用いた生体分子の真空導入装置については、タンタル薄膜上にアミノ酸分子(グリシン)を物理吸着させるためにスピンコーターの導入を行った。波長532 nmの出力(最大1 mJ/pulse)を金属薄膜上に裏面から照射することによって、グリシン分子の脱離を誘起した。グリシン分子由来のイオンが増加することを、残留ガス分析装置を用いて確認を行った。また、生体分子の真空導入装置を実際に組み込む、多層円筒電極から構成されるイオン運動量画像計測装置の性能評価を行い、イオン光学シミュレーション結果と合致する電圧条件で、フラグメントイオンの運動量画像が計測できることの確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラグメント分解運動量画像計測装置の開発については、当初の計画通り進んでいる。原理実証を終了しており、多原子分子のアト秒分子ダイナミクスの計測が可能な状況である。一方、レーザー誘起音響脱離法を用いた生体分子の真空導入装置については、金属薄膜の種類および厚さ、吸着分子量、脱離に用いるレーザーのパラメーターおよび金属薄膜の走査等、多数のパラメーターがあるため、最適なパラメーターを見出すことができていないのが現状である。最適化を難しくしている要因の一つとして、分子が脱離している時間のデューディー比が小さいため、残留ガス分析装置による脱離分子数の定量に限界がある。
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今後の研究の推進方策 |
フラグメント運動量画像計測装置については、PLZT空間光強度変調素子の電極構造の改良によって、高速化を実現することで、全フラグメントイオン種の3次元運動量画像の同時観測の実現を目標とする。一方、レーザー誘起音響脱離法を用いた生体分子の真空導入装置については、薄膜に穴が開くことを回避するためには、薄膜試料を連続的に動かすことが必要であることが判明したため、レーザーの繰り返し周波数にあわせた走査速度の最適化を行う。開発済みのフラグメント運動量計測装置を用いて、アト秒パルスを用いた多原子分子における分子内電荷移動過程の実時間追跡を行うことと並行して、イオン運動量画像計測装置に実際に生体分子の真空導入装置を組み込み、近赤外光を用いたイオン化による運動量画像の観測を行う。
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