研究課題/領域番号 |
15H03585
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
白藤 立 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (10235757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液中プラズマ / 人工流路 / 3Dプリンタ / マイクロ化学 / ナノ粒子 / 粒径分布 / 液中反応 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
3Dプリンタを用いて製作された格子状多孔質誘電体に微細気泡と液体の混相媒質を流し,パルス電圧を印加することによって,多数のミクロな液体とプラズマと接触する系(三次元集積化マイクロソリューションプラズマ)を実現した.この系で金ナノ粒子を合成する際に,多孔質体の空孔数を14×7から3×7に低下させると,金ナノ粒子の粒径分布が40.6±16.4 nmから34.5±10.6 nmとなり,粒径分布の広がりが約6 nm抑制された.これは,当初目的とした液相厚が異なることによって液中反応の均一性が変化したためであると考えられる.但し,金ナノ粒子が導電性であるために,多孔質誘電体の表面が導電性をもち,長時間のプロセスが困難であることが明らかとなった.この対策として,固体と接しない細い液体ジェットにプラズマが接する系を実現することにより,同様の金ナノ粒子の合成が可能であることを明らかにした. 3Dプリンタを用いた三次元集積化マイクロソリューションプラズマの適用先として,多孔質誘電体の表面の導電性変化の懸念が無いメチレンブルー分解に適用し,メチレンブルー分解が高効率で可能であることを明らかにした.また,マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析によって,これまで十分に明らかにされていなかった液中プラズマ中でのメチレンブルー分子の分解反応過程の詳細を明らかにした. 更に,浸透圧調整された水溶液中の大腸菌を当該三次元マイクロソリューションプラズマによって殺菌することが可能であることを明らかにした.また,まだ詳細は解明されていないが,当該三次元マイクロソリューションプラズマによって脱イオン水を処理した後,その水を用いた浸透圧調整水溶液を調整すると,その調整水に大腸菌を殺菌する能力が備わっており,製造直後よりも24時間室温大気中で放置した処理水を用いた方が,高い殺菌能力を有することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3Dプリンタ技術を利用することによって,本計画開始前に行っていたランダムな多孔質体では不可能であった設計された多孔質体を利用できるようになった.これは,計画開始前からの大きな前進であると考えている.これにより,マイクロ流路の流路構造を意識的に変えるが可能となった.本年度は,ナノ粒子の合成において,マイクロ流路の流路構造を意識的に変えた実験を行った.その結果,単分散には至らなかったものの,粒径分布の幅を狭くすることができることができた.これは,プラズマと接する溶液の厚みが薄くなったことにより,溶液中の反応の均一性が向上したためであると考えられ,当初期待していたマイクロ化学の効果がプロセス結果に表れたものと考えている.但し,導電性のナノ粒子を合成するプロセスでは,多孔質誘電体の表面が導電性をもつようになるため,長時間のプラズマ生成が困難であることが明らかになった.これは当初予測していなかったことであったが,液体が固体と接しない微小ジェット流にプラズマを作用させる方式を適用することによって,この問題を回避することができた. 上記のようなプラズマ維持時間の短縮に関する懸念が無い応用例である水中有機物の分解では,これまでに多数の報告がありながら,その反応メカニズムが明確にされていなかったメチレンブルー分子の分解過程の詳細を明らかにすることができた. さらに,殺菌への応用可能性を探索した際には,プラズマ処理した水に殺菌能力が備わっていること,並びに,処理水製造直後よりも24時間放置した後の方が高い殺菌能力を持っていることを明らかにした.この起源の詳細は現時点では不明であるが,他研究者が報告しているプラズマ処理水の殺菌能力を長時間維持させるためには,低温保存が必要であるのに対し,本研究で得られた処理水は室温放置でも殺菌能力が維持されているという興味深い特徴が見出されている.
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今後の研究の推進方策 |
3Dプリンタを用いたマイクロ流路の設計・製作において,平成27年度では三次元の格子状の流路を形成した.この方式は,均一な流路を形成するという意味では有意義であったが,媒質の流れが三次元的になるために,流れの方向性の制御や滞在時間の正確な制御が困難となる.今後は,一次元的な方向性を有する流路を用いることにより,媒質の流れが確率的になる構造を極力無くした流路を形成し,同様の実験を行う.これにより,構造パラメータとプロセス結果の関係がより明確になる.また,当該年度で問題点として発覚した金属系ナノ粒子合成の際の多孔質誘電体表面への導電性発現によるプラズマ持続時間短縮については,固体と接しない液体ジェット流にプラズマを作用させることで回避された.しかし,この方式は当初計画には無かったものであるため,興味深い方式ではあるが,ジェット流の直径依存性(液厚)やジェット流の速度依存性(滞在時間)などはまだ十分系統的に調査していない.平成28年度では,こうした新たなマイクロ流路を用いたプロセスにも注力する. また,流路がプロセス結果に与える影響の詳細を知るためには,プロセス結果だけを見るのではなく,液中の生成物を逐次検出し,メカニズムを知ることが重要である.気相中の生成物については,発光分光等によってある程度明らかにしてきたが,液中については,平成27年度に導入した分光蛍光光度計を用いたケミカルインジケータによる分析が効力を発揮した.しかし,蛍光で検出できる化学種は限られていることから,イオンクロマトグラフ等の手法も駆使した液中化学種の検出が必須であると考えられる.このアプローチは,殺菌能力が室温でも長時間維持されるという特異なプラズマ処理水の殺菌能力の起源を明らかにしようとする際にも有効である.
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