研究課題/領域番号 |
15H03598
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研究機関 | 国立研究開発法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
鈴木 雅雄 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 主任研究員 (70281673)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロビーム / バイスタンダー効果 / 細胞質限定的照射 / ヒト正常細胞 / 細胞致死効果 / 放射光 |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した「【個別研究目的1】 放射光X線マイクロビームをヒト正常細胞の細胞質に限定的に照射した時の細胞致死効果の線量効果関係を明らかにする。」を達成するために、以下の実験を実施した。 (1)放射光X線マイクロビーム細胞質限定的照射用に開発したアタッチメントに適合するヒト正常細胞の培養条件の検討。 (2)ヘキスト染色された細胞にコンピューター認識させるに必要な励起光を照射した時の細胞毒性の測定。 (3)研究計画に則り、ヒト正常細胞の細胞質のみにX線を照射した時の細胞生存率の測定。 使用する培養細胞によって細胞全体や核の大きさ、形が異なるため、まず本研究に使用するヒト皮膚由来正常線維芽細胞に対して、細胞質照射用アタッチメントで設定した細胞核をX線から遮蔽するための直径22マイクロメーターの金製ポストに完全に細胞核が遮蔽され、かつ細胞質照射に設定した二種類のマイクロビームサイズによって隣り合った細胞に誤照射が起こらない細胞試料作成条件(細胞を播種するタイミング、液量と細胞密度、細胞認識のためのヘキスト染色条件など)を最終決定した。その結果、マイクロビームサイズとして30 x 30マイクロメーターが最適であると判断した。 次に、細胞を認識するために細胞核をヘキスト染色することが本研究では必要不可欠となるが、ヘキストは細胞核内のDNAに取り込まれるため、細胞を認識する際に短時間照射する励起光によるDNA損傷が細胞生存率に与える影響を明らかにした上でないと本研究で実施する生物効果を評価できなくなる。そのためにヘキストの励起光のみを照射した時の細胞生存率を測定した。その結果を踏まえて平成27年度は、まず細胞質に10レントゲン(0.9Gy相当)を照射した時の細胞生存率を測定した。現段階ではプレリミナリーな結果ではあるが、細胞質への10レントゲン照射では、細胞生存率はほぼ100%となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究を実施するために利用する所属機関以外の研究施設での共同利用研究として、高エネルギー加速器機構放射光共同利用実験が採択されている(課題番号:2013G072、課題名『X線マイクロビーム細胞質限定的照射に対する細胞応答(バイスタンダー効果)解析』、課題代表者:鈴木雅雄)。平成27年度は合計9日分のビームタイム配分を受け、それらすべてについてマシントラブル等一切なく実験を実施することができた。そのため、ほぼ当初の研究計画に沿って研究を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得た実験データは、プレリミナリーな状態ではあるが、細胞質のみにX線を10レントゲン照射した場合は、細胞死が生じないというものであった。この結果は、本研究で掲げた作業仮説『細胞質に電磁波放射線のエネルギー付与が起こった場合、細胞核に生じた放射線損傷を軽減する何らかのメカニズムが働き、バイスタンダー効果を抑制することにより細胞致死を軽減する(放射線適応応答)。』を証明するための第一段階をクリアしたもので、この結果を受けて新たな検証実験を計画しなければならないとは判断しない。平成28年度は引き続き細胞質限定的照射の細胞致死効果を照射する線量を増やして検討するが、合わせて交付申請書の研究実施計画の中の「【個別研究目的2】 放射光X線マイクロビームをヒト正常細胞の細胞質に予め照射し、それに引き続き細胞核に照射した時の細胞致死効果の変化を明らかにする。」を実施するための準備・予備実験を展開する予定である。 なお、高エネルギー加速器機構放射光共同利用実験で採択されている(課題番号:2013G072、課題名『X線マイクロビーム細胞質限定的照射に対する細胞応答(バイスタンダー効果)解析』、課題代表者:鈴木雅雄)課題に対しては、大きなマシントラブル等がない限り平成27年度と同レベルのビームタイム配分が行われるものと予想している。
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