研究課題/領域番号 |
15H03606
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50153804)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モチーフ理論 / モチフィックコホモロジー / 相互層 / 分岐理論 |
研究実績の概要 |
主な研究目的はモチーフの理論をホモトピー不変性をもたない枠組みへ拡張することである。モチフィックコホモロジーの理論は数論幾何学,代数幾何学における重要な研究対象である。モチーフの理論はモチフィックコホモロジーをホモロジー代数的に扱う枠組みを構築する理論である。これまでの理論ではホモトピー不変性が理論の基本的前提条件であった。しかしこれは応用上本質的な制約となる.例えば,代数幾何学の様々な基本的な不変量(例えば微分形式の層)はホモトピー不変性を満たさない.また整数論の重要な研究対象であるガロア表現においても,順分岐なものはホモトピー不変性をみたすが暴分岐なものは満たさない。微分方程式においても類似の現象があり,確定特異点型はホモトピー不変性を満たすが不確定特異点型は満たさない。よって既存のモチーフ理論は応用上いまだ未完成な理論であるといえる.当該研究では,Voevodskyが構成した既存の理論をホモトピー不変性を持たない新しい理論へ拡張するとを目的とする。ホモトピー不変性をもたないモチーフの理論の構築のために,モヂュラス付きのモチーフの理論の開発が進めている。Voevodskyが構成したモチーフの三角圏は,ホモトピー不変性を満たす層「ホモトピー不変層」を基本的構成要素としている.当該研究者はこれまでホモトピー不変性層を拡張する「相互層」を新たに導入し、Voevodskyが示したホモトピー不変層にたいする基本定理を相互層にまで拡張することに成功したことである。さらにこれを用いてVoevodskyのモチーフの三角圏の基本的性質である「ホモトピーt-構造の存在」をモヂュラス付きモチーフの三角圏にまで拡張することを目標とする。また新たなモチーフ理論を分岐理論へ応用することも目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Voevodskyのモチーフの三角圏の構成において基本的な役割を果たす「ホモトピー不変層」を拡張する「相互層」を新たに導入し,Voevodskyが示したホモトピー不変層にたいする基本的性質のすべてを相互層にまで拡張することに成功した。さらにこの理論を分岐理論に応用する研究が新たに進捗している。特に、ガロア群の指標に対する導手を、モチーフ理論を用いて新たに解釈することに成功した。実際、「モチーフ論的導手」なるものが相互層ごとに定義され、ガロア群の指標の導手はその特別な場合とみなせる。ガロア群の指標の導手以外にも、接続付きの直線束にたいするirregularityもモチーフ論的導手の特別な場合とみなせる。これまでにもガロア群の指標に対する導手と接続付きの直線束にたいするirregularityの間には類似性があることが指摘されていたが、当該研究の成果により初めてそのことが理論的に定式化された。
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今後の研究の推進方策 |
上に説明した相互層の分岐理論への応用は「モチーフ論的分岐理論」という新たな理論を生み出すことが期待される。今後は分岐理論で知られている事実をモチーフ論的分岐理論へ拡張する研究を推進する。具体的にはガロア群の指標の導手に対する「Brylinski-Kato公式」と「Abbes-Saito公式」をモチーフ論的導手にたいして示すことを目標とする。
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