平成30年度は,相対論的な拡散を扱う新たなコード開発を進めた。超臨界降着流を正しく計算するためには,光子捕獲が起こる光学的に厚い領域と光子の脱出が起こる光学的に薄い領域を同時に扱う必要がある。光学的に十分厚い領域では,光子は多重散乱によって拡散する。一方,光学的に薄い領域に入ると,平均自由行程以内で光子は脱出する。これまでのFLD法(フラックス制限拡散近似)では,光学的に薄い部分の輻射輸送は解かず,フラックス制限関数によって近似してきたが,この方法は相対論的には因果律を破るため,因果律を保持する相対論的拡散近似法を開発を進め,固定時空(Kerr時空)の下で一般相対論的輻射輸送計算コードを改良し,光学的に厚い領域と薄い領域とを分けて扱うことができるように改良した。これを既に開発している一般相対論的輻射流体輸送コードARTISTと総合する枠組みを作った。ARTISTは,梅村らが開発した非相対論的な6次元輻射輸送コードARTの計算手法を,一般相対論的な時空計量に適用したものである。この輻射輸送コードは,測地線に沿って光の軌跡を時間依存で解くため,因果律が厳密に満たされ,光線の湾曲,時空の引きずり,重力赤方偏移等の一般相対論効果を正しく扱うことが可能である。また,これまでの近似法のように波面の衝突は起こらず,波として交差することが可能である。厳密なレイトレーシングコードMASTERを開発し,ARTISTによって計算した結果を,比較した結果,非常に良い一致を示し,ARTISTが輻射伝搬を正確に追えていることを確認できた。このコードを用いることによって,超臨界降着流におけるブラックホール近傍での光子捕獲を正確に扱うことができるようになる。これにより,相対論的輻射輸送と輻射拡散を整合的に扱うことができるようになった。
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