研究課題
銀河団は、暗黒物質、X線を放つ高温プラズマ、数百の銀河から成る宇宙最大の自己重力系で、大規模構造の節にあり、宇宙年齢の中で衝突合体を繰り返しながら、成長してきたと考えられている。我々は、銀河系から距離 300 Mpcという近傍にある銀河団 CIZA J1358.9-4750 を、日本のX線衛星「すざく」で観測し、これが衝突の初期段階にあることを発見し、その研究を進めてきた(Kato, Nakazawa et al. 2015)。2015年度は、追加で観測した「すざく」による周辺領域の4点のデータに加え、角分解能に優れるアメリカの Chandra 衛星で観測したデータを解析したところ、2つの銀河団の合体部でマッハ1.3+/-0.2の衝撃波が発生していること、その前方・後方衝撃波が輝度分布にはっきり見られ、post-shock 領域が 170 kpc 幅しかないことを確認した。衝撃波の年齢は70 Myrと、銀河団としては極めて若いことが示唆された(論文執筆中)。硬X線で「すざく」衛星を大きく上回る観測を目指して、次世代のX線衛星ASTRO-Hの開発を進めてきた。2015年度は衛星全体の環境・性能試験ののち、2016年2月17日についに打ち上げを迎えた。我々が中心となって開発した硬X線イメージャは、3月に立ち上げを行い、軌道上でその基本性能が要求を満たすことを確認し、かつ短時間の初期観測も実施した。3月26日に衛星の姿勢が損なわれたため、現在「ひとみ」は通信ができない状態であるが、復旧に努めているところである。また、さらに高感度・高精度の観測を実現する次世代硬X線衛星FORCEの計画を推進しており、今後は「ひとみ」硬X線イメージャの既存の軌道上データをさらに解析することで、より一層の感度向上を実現する新しい検出器の開発を進める。
2: おおむね順調に進展している
衝突銀河団 CIZA J1358.9-4750の観測研究は順調に進展しており、当初の発見を論文として発表した。さらい追観測のデータを用いて、衝撃波の同定およびその年齢の若さを確認することができた。さらなる観測提案もしており、今後ますます発展が期待できる。新しい宇宙X線衛星「ひとみ」の開発では、我々が主担当してきた硬X線イメージャをついに打ち上げまでこぎつけ、立ち上げ運用の結果、軌道上でほとんど予定通りの性能を達成した。ただし「ひとみ」は現在通信途絶中であり、今後の観測研究は予断を許さない。一方で、次世代の高感度硬X線撮像分校観測を実現する新しい衛星の検討を進めた。
今後は、「ひとみ」の復旧を待つだけでなく、X線衛星「チャンドラ」や「ニュートン」、そして硬X線衛星 NuSTARを用いた、衝突銀河団の観測研究を積極的に進める。特に衝突銀河団 CIZA J1358.9-4750はその天体の特徴が画期的であり、その観測研究を先頭に立って推進している立場を生かして、今後も新しい成果を出して行く。「ひとみ」硬X線イメージャについては、軌道上のでのデータが存在するので、これを解析して検出器性能を引き出し、科学的成果をエルとともに、より良い観測性能を得るための工夫をする。また、将来のより優れた硬X線検出器の開発にも取り組む。いままさに「ひとみ」の硬X線イメージャの経験を取り込んだ新しいアイデアを導入するところであり、大きな進展が期待できる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 68 ページ: S21~S21
https://doi.org/10.1093/pasj/psv129
Publ. Astr. Soc. Japan
巻: 67 ページ: id. 9
10.1093/pasj/psv029
http://www-utheal.phys.s.u-tokyo.ac.jp/wordpress/20160312press_release/