研究課題/領域番号 |
15H03643
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 朋治 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10291056)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 銀河系中心核 |
研究実績の概要 |
本研究では、Atacama Large Millimeter and Submillimeter Array (ALMA)を始めとする大型のミリ波サブミリ波観測装置を駆使して、我々のグループが銀河系中心分子層(CMZ)に多数発見した「高速度コンパクト雲(High-velocity Compact Cloud; HVCC)」の観測研究を協力に推進する。これによってHVCCの綿密な分類作業を行うとともに、空間・速度構造と物理状態を手がかりにそれらの起源を探る。特に、一部のHVCC中で気配がある巨大な「見えない質量」の正体を解明する。これらの解析結果に基づいて、CMZ内における巨大星団および中質量ブラックホール(IMBH)の形成・成長過程を把握し、中心核巨大ブラックホール(SMBH)の階層的形成・成長シナリオを検証する事を目的とする。 初年度にあたる平成27年度は、野辺山宇宙電波観測所(NRO) 45m望遠鏡およびハワイのJames Clerk Maxwell Telescope (JCMT) を使用したCOスペクトル線によるCMZ広域サーベイと、NRO45m+ASTE+ALMAを使用した孤立型HVCC CO-0.40-0.22の重点的な観測を行った。平行して、大規模サーベイデータ中でHVCCを自動的に同定する計算機アルゴリズムの開発に着手した。うちCO-0.40-0.22の観測結果からは、その詳細な空間・速度構造から内部に約10万太陽質量の点状天体の存在が示唆される。これは、中心核SMBHの成長に寄与するIMBHを検出した可能性がある。さらにNRO45mとJCMTによるCO広域データから、従来認識されていなかった複数の巨大膨張シェル構造を見出した。これらはそれぞれ複数の超新星爆発によって加速された構造と考えられ、そこには少なくとも数万太陽質量の巨大星団が潜んでいる事が推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、観測データは順調に蓄積されており、継続的に成果を挙げていると考えている。 初年度終了時点までに、単一鏡によるCO広域サーベイ観測がほぼ終了し、また孤立型HVCC CO-0.40-0.22の詳細観測も完了した。HVCCの自動同定アルゴリズムの開発も順調に進んでおり、基本的な設計とコーディングは既に完了し、現在それを実データに適用しながらパラメータの最適化を進めているところである。さらに、初年度に取得されたデータの解析結果に基づき、いくつかのHVCCについて詳細観測の提案を行い、複数の電波望遠鏡において観測時間を獲得した。これらの観測も順調に進行しており、次年度には成果が得られる予定である。 論文執筆および出版プロセスも比較的スムースに進行している。国内外の学会・研究会においても多数の成果発表を行っており、招待講演や一般の講演会にも多く招かれている。本研究課題の成果として2016年1月に発表したCO-0.40-0.22についての論文「Signature of an Intermediate-mass Black Hole in the Central Molecular Zone of Our Galaxy」は、発表以来非常に高いdownload件数を記録しており、順調に被引用件数も伸ばしている。これはAmerican Astronomical Societyが発行する雑誌中で"Selections from 2016"の一つに選ばれており、論文出版に合わせて行ったプレスリリースも奏功して、複数の一般紙と特に海外のwebニュースに数多く掲載されるとともに、科学雑誌「パリティ」においても「2016年の物理の成果」の(四つ中)一つに選ばれた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の計画は、概ね当初の計画通りに進める予定である。 具体的には、初年度に取得した大規模データに対してHVCC自動同定アルゴリズムを適用し、CMZ内にあるHVCCの完全なカタログを作成する。これによってHVCCの綿密な分類作業を行うとともに、個別のHVCCの詳細観測を強力に推進する。特にALMAを使用した孤立HVCCの観測は、その内部に潜んでいると考えられる中質量ブラックホールの存在を確認する為には本質的に重要である。また平行して、個別HVCCの詳細な内部構造・運動を再現する流体シミュレーションのコーディングに着手する。 これらに加えて、CMZから遠く離れた銀河系円盤部に発見された、HVCC様の高速度ガス成分についての観測研究も進める。具体的には、超新星残骸W44に付随する分子雲中に速度幅120 km/sものコンパクトな構造を検出しており、恒星質量ブラックホールが分子雲を高速通過した事により生成した構造と推測している。銀河系内には、このような「野良」ブラックホールが1億個以上彷徨っていると考えられており、そのような自らは輝かない天体を間接的に検出する手法を見出した可能性がある。 以上の結果から、CMZ内における巨大星団および中質量ブラックホール(IMBH)の形成・成長過程を把握し、中心核巨大ブラックホール(SMBH)の階層的形成・成長シナリオを検証するとともに、対象を銀河系全体に対象を拡大して研究を進めていく予定である。
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