研究課題/領域番号 |
15H03652
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福嶋 健二 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60456754)
|
研究分担者 |
日高 義将 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 研究員 (00425604)
松枝 宏明 仙台高等専門学校, 総合工学科, 教授 (20396518)
佐々木 勝一 東北大学, 理学研究科, 准教授 (60332590)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | トポロジカル電荷 / トポロジカル感受率 / CP(N-1)模型 / 格子数値計算 |
研究実績の概要 |
本年度はスナップショット・エントロピーを通した計量の創発に注目した研究を主に行った。スナップショット・エントロピー自体は画像情報に基いて定義されるものであり、熱化プロセスや熱的エントロピーに読み替えられるような量ではないが、ホログラフィックな定式化に対するヒントを与えてくれるものと期待される。 スナップショット・エントロピーは特異値分解によって定義されるため、2次元の画像データの解析に威力を発揮する一方、3次元への拡張は極めて難しい。そこで我々は空間2次元でQCDに近い性質を持つCP(N-1)模型をとりあげ、スナップショット・エントロピーのアイデアを試してみることにした。CP(N-1)模型はトポロジー的に非自明な励起(インスタントン)を持ち、しかも格子上であるにもかかわらずトポロジカル電荷が厳密に整数値を取ることが示されている。このことを利用して、トポロジカル電荷密度の空間分布に対して、スナップショット・エントロピーを計算してみることにした。 CP(N-1)模型は温度の逆数に対応する結合定数を含んでおり、我々はスナップショットエントロピーを結合定数の関数として求めてみた。その結果、スナップショット・エントロピーは、トポロジカル感受率が大きくなり始める結合定数の近傍で、極小値を取ることを見出した。この非単調な結合定数依存性が偶然ではないことを確かめるために、フーリエ変換を利用した独立なエントロピー(フーリエ・エントロピー)も計算したところ、やはり同じ結合定数の近傍でフーリエ・エントロピーが定性的に振る舞いを変え、ほぼ一定から減少に転ずることを発見した。このような振る舞いの変化の起源を探るためにトポロジカル電荷密度分布の有限フーリエ波数成分に対して解析を続けている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では実時間発展の問題に量子効果を取り入れることを目指し、古典統計シミュレーションや運動論を用いるための準備をしていた。実際、1年目には運動論の固定点分類で成果をあげることができた。しかし運動論の応用には限界があるため、我々はより強力な手法であるゲージ重力対応の研究も並行して進めることにした。具体的にCP(N-1)模型の格子シミュレーションを用いた研究計画を策定し、格子シミュレーションのコードを開発した。我々のコードが先行研究の結果を正しく再現しているかどうか、注意深い検証が必要となるため、コードの開発に想定外の時間がかかってしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
CP(N-1)模型は現在、原子核・素粒子・物性など様々な分野で研究されており、信頼できる数値シミュレーションのコードが得られたなら、応用すべき課題は数知れない。我々は現在、トポロジカル電荷密度に注目して数値シミュレーションを進めており、すでに論文を執筆するに十分な非自明な結果を得ている。数値シミュレーションの結果について考察を深めている段階であり、物理的、直感的な解釈が固まり次第、論文として発表する予定である。その後の進展については、相互作用の高次項を入れるとトポロジー的な相転移をすることが知られており、その詳しいダイナミクスを数値シミュレーションで調べることを計画している。
|