研究課題/領域番号 |
15H03653
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧島 一夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (20126163)
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研究分担者 |
中澤 知洋 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (50342621)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中性子星 / マグネター / 自由歳差運動 / 内部磁場 / 宇宙X線衛星 |
研究実績の概要 |
本研究は、「マグネターと呼ばれる超強磁場をもつ一群の中性子星が、内部に10の16乗ガウスに達する強烈な内部磁場を内包し、その磁気応力でわずかに縦長に変形し、自由歳差運動が起きる結果、硬X線パルスの位相が、パルス周期の1万倍程度の周期で前後に変調される」という、世界初の概念を観測的に検証することを目的としている。2015年度までにはX線衛星「すざく」のデータを用いて、4U 0142+61および1E 1547-54と呼ばれる2つのマグネターから、この効果を検出することに成功した。 今年度はおもに、 (A)「すざく」のデータを用い、新規のの検出例を探査すること、 (B)硬X線帯域に優れた感度をもつ米国NuSTAR衛星の公開データを用い、「すざく」の結果の追検証を進めること、という2つの方向で研究を進めた。その結果(A)については、昨年度に解析に着手した 1RXS J1708-40の「すざく」データを用いから、周期35 ksec 程度に位相変調の徴候を得た。(B)については、4U 0142+01のNuSTARデータを解析した結果、変調振幅は「すざく」で得たものよりずっと小さいものの、やはり周期 55 ksec でのパルス位相変調が存在することを確認することができた。これにより、この変調効果は「すざく」に特有な「見せかけの効果」ではなく、天体に内在する現象であることが明らかになり、研究に大きな進展が得られた。さらに連星X線パルサーの自転周期の変化率と降着トルクの間の理論的関係式(Ghosh and Lamb 1979) を、全天X線監視装置 MAXI のデータなどで較正した結果、X Perseiなど一群の長周期パルサーが、マグネターに匹敵する10の14乗ガウスの双極子磁場をもつという可能性を突き止めた。これは歳差運動の検出と並んで、マグネターの磁気進化に対する新しい知見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的の1つであった、ASTRO-H衛星による高感度観測は、残念ながら実施できなかった。これは同衛星が2016年2月17日に打ち上げられ「ひとみ」と命名されたのち、3月26日に姿勢制御系の不具合で衛星としての機能を喪失してしまったためである。他方、X Perseiなど長周期の連星X線パルサーがマグネター並の強磁場を持つという示唆は、当初の予想を越える成果と自負する。これらプラスとマイナスを勘案し、また他の項目については、ほぼ予定どおり研究が進展していることを考えると、「おおむね順調」と自己評価できる。総じて、マグネターの自由歳差運動という新概念をより確実なものにし、マグネターの磁気進化の実相に迫ることに成功したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の方針で研究を進める。(a) NuSTARによる4U 0142+61 の観測結果をまとめ、論文を執筆する。(b) 軸対称に変形した中性子星からの放射を数値モデル化し、それを用いて4U 0142+61や1E 1547-54の「すざく」データを再解析し、モデルのパラメータを絞り込むことで、変形の程度、放射の異方性などを理解する。 (c)2016年度までの成果を受けて、1RXS J1708-40の位相変調が本物であるかどうか、決着をつける。 (d) NuSTARに我々自身で観測提案して獲得した、1E1547-54のデータ解析を進め、「すざく」で検出された 36 ksec 周期での変調を追検証する。 (e) 長周期の連星X線パルサーの正体をさらに究明し、それらとマグネターとの関係を、磁気進化の観点から理解することを試みる。
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