研究実績の概要 |
H27年度から本格的に始動した、すばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam (HSC) 深宇宙イメージング(撮像)サーベイを念頭に、その宇宙論統 計量からダークエネルギーなどの宇宙論パラメータを制限する手法を開発している。イメージングサーベイから銀河像を精密に測定することにより、手前のダークマターの空間分布を復元することができる。一方、銀河の分光サーベイは各々の銀河までの距離を測定することを可能にし、銀河の3次元分布で宇宙の大規模構造を探る強力な手段である。同じ天域領域のイメージングと分光サーベイを組 み合わせることで、着目する銀河まわりのダークマターの分布を明らかにすることが可能になり、いわゆる銀河のバイアス不定性を観 測的に除去することができる。宇宙構造形成の大量の数値シミュレーションのデータベースを構築しており、高速かつ正確なクラスタリング統計量を予言するエミュレータを整備している。H29年度には、この数値シミュレーション理論モデルをスローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)の銀河団データに適用し、銀河団の観測量とダークマター総量の関係を導出した(Murata, Nishimichi, Takada et al. 2018, ApJ, 854, 120)。また、本研究者のリードの下、上記のすばる望遠鏡HSCプロジェクトの初期データを用い、その科学成果の40編の論文を日本天文学会欧文報告書に報告することができた(Publications of Astronomical Society Japan, 2018, Vol. 70, SP1)。この論文には、精密重力レンズ測定のための銀河カタログの論文も含まれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すばる望遠鏡最大規模の大型プロジェクトであるHSCサーベイのデータを高精度で解析し、較正済み画像、天体カタログ(星、銀河) 、物理量の測定量(位置、各フィルターでの光度、形状)を全世界に公開することができている(2017年2月28日)。この計画は2019年までの5ヶ年計画であるが、その最初の2年間のデータ・天体カタログを用い、本研究者が国際共同研究をとりまとめ、40編の論文を日本天文学会欧文研究報告のHSC特集号に発表することができた(Publications of Astronomical Society of Japan, Vol. 70, SP1)。これらの論文には、HSCカメラの詳細、プロジェクトの概要、重力レンズ効果の測定のために必要な銀河形状カタログの詳細、太陽系の小天体のサイエンス、天の川銀河の矮小銀河の発見、HSCデータから構築した銀河団カタログ、近傍・遠方銀河のサイエンス、など多岐にわたる。これは非常に大きなマイルストーンであり、現在宇宙論パラメータを推定するための研究を進めている。また、これに平行して、宇宙構造形成の大規模なN体数値シミュレーションを大量に実行し、高速かつ正確に宇宙論観測量を予言する理論模型の構築を進めている。広天域HSC銀河カタログから得られる「高精度」の宇宙論統計量の統計精度に見合う、「正確」 な宇宙論の理論模型を構築することが目標である。実際に、この数値シミュレーションに基づく理論模型をSDSSデータの銀河団観測量に適用し、銀河団の性質とダークマター総量の関係を導出することができた。この研究は世界でも着目されている。このように精密宇宙論を行うために、観測、解析、理論の整備を着実に進めること ができている。
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