H27年度から本格的に始動した、すばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam (HSC) 深宇宙イメージング(撮像)サーベイを念頭に、そのデータから測定する宇宙論統計量からダークエネルギーなどの宇宙論パラメータを制限する手法を開発した。イメージングサーベイから銀河像を精密に測定することにより、宇宙構造の重力レンズ効果が測定でき、ダークマターの空間分布を復元 することができる。さらに、多色フィルターの情報から得られる個々の銀河までの距離の擬似的距離の情報を組み合わせることで、ダークマターの空間分布の時間進化を調べることが可能になる。H30年度は、この開発した手法をすばるHSCの初期データ(全体の約10分の1)に適用し、ダークマターの総量、現在の宇宙の構造形成の進行度合いを記述する物理定数を約3.6%の高精度で決定することに成功した(Hikage et al. 2019)。すばるデータを用いた研究では初めて、先行宇宙論研究に影響され得る確証バイアス(confirmation bias)を避けるために、ブラインド解析の手法で物理解析を行うことに成功した。また、本研究で構築した数値宇宙論のデータを駆使し、物理解析をすばるHSCの疑似カタログで注意深く確証する(validate)などして、信頼性の高い結果を発表することができた。このすばるの結果は、他の欧米の構造形成を用いた結果と同様に、宇宙背景放射衛星Planckの宇宙論モデルと2σ程度の矛盾を示している。これは、宇宙の標準模型を超える新しい物理の可能性を示唆しているかもしれない。また、ダークエネルギーの状態方程式も制限することができたが、すばるデータは宇宙定数と矛盾がないことを確認した。このすばるの結果は業界で注目されており、現在進行中のすばるHSCデータでのさらなる高精度の検証が強く望まれる。
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