強結合の場の量子論が有限温度に置かれた際の一般的な重力双対はブラックホール時空となり、この双対性を用いた、重力側での時間発展についてのダイナミクスを、ブラックホール時空の特殊な性質の現れとして研究を行なった。主に、次の三つの研究テーマにおける独自のアプローチが成功し、査読付き論文として発表し、それらを世界各国で研究成果発表した。 (1)フロッケワイル半金属とフロッケディラック半金属の重力双対における動的な伝導度の導出:フロッケ系は、時間周期的な外場を物理系に作用することで、特殊な応答の性質を見出すことのできる、近年発展している手法であるが、強く結合した系の時間発展ダイナミクスを調べる本研究の上で、欠かせない優良な例となることが本研究で明らかになった。そのため、強結合ディラック物質すなわち量子色力学系について、重力双対を取り、重力側で電場の線形応答を、時間周期的な回転電場の背景において計算を行った。結果、ホール伝導度が現れることを発見し、伝導度に特徴的なスケールが発生した。この成果は、物質への応用が期待される。 (2)量子力学における非時間順序積:非時間順序積はカオスの度合いを測るものとして導入され、その特徴は重力双対での事象の地平面における赤方偏移に起因すると考えられているため、一般的な量子力学で、その初期的熱状態の時間発展を研究した。結果、古典カオス系であっても、非時間順序積による動的カオスの性質は一般的には発生し得ないことを示した。 (3)重力ブラックホール時空内の事象の地平面近傍のカオス:一般に動的な物理を重力側で特徴付ける際にはブラックホールの事象の地平面の性質を拾う必要がある。そこで、地平面近傍のテスト粒子やブレーンなどを考え、その運動を具体的に解くことを行った。結果、地平面近傍にはカオスが現れ、その指数は期待されている指数と一般的に一致することも示された。
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