研究課題/領域番号 |
15H03659
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小田原 厚子 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30264013)
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研究分担者 |
下田 正 大阪大学, 理学研究科, 教授 (70135656)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 中性子過剰核 / 超微細構造 / レーザー光ポンピング / 原子核構造 |
研究実績の概要 |
「逆転の島」の中心核の構造解明のため、生成が難しく収量の少ない中性子過剰核の超微細構造を測定する新奇手法を開発してきた。まず、2015年に超高感度測定を目指し、新型の球面ミラーと蛍光モニターシステムを新たに設計・製作した。2016年4月に安定核ナトリウム23原子を用いてシステムの性能テスト実験を行い、十分な性能を確認できた。そこでいよいよ、超高感度レーザー分光法開発実験を2017年1月に実施する予定であったが、TRIUMFの新しい施設の工事のため急遽中止となり、科研費を繰り越し、2017年7月に実験を行った。 この手法は、照射するレーザーの波長と異なる波長の脱励起光を検出することで、バックグラウンドとなる大量の散乱レーザー光の影響を取り除くものであり、アルカリ金属やその周辺核原子を対象とする。以下の2種類の開発実験を実施した。 1種類目は、330nmのレーザーを照射し、異なる波長の589nmの脱励起光を検出する方法である。残念ながら、それでも散乱レーザーがバックグラウンドとして存在することが判明した。そこで、粒子と脱励起光の同時測定でこれを除去し、毎秒約1,000個のビームで測定可能であることを示した。2種類目は、589nmのレーザーを照射し、ドップラー効果によるわずかに異なる波長の脱励起光を検出する方法である。散乱レーザーによるバックグラウンドは依然として大きく、粒子と脱励起光の同時測定に加えて、1nm幅のバンドフィルターを導入し、除去することに成功した。さらに、円偏光レーザーを用いた場合、毎秒100個のビームでも、2本中の1本の共鳴ピークならば、検出できることを示した。 最終的に、超高感度レーザー分光法と我々独自の偏極核のβ崩壊非対称性の測定を組み合わせ、毎秒100個以下のビームでも超微細構造を測定できる超感度測定法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が2015年度から開発を進め、2016年4月に性能テスト実験を行った球面ミラーと蛍光モニターシステムは非常に性能良く働き、TRIUMFの旧システムと比較して、約3.4倍も大きい相対検出効率を得ることができた。 新しい超高感度蛍光モニターシステムを用いて、当初、2017年1月に非常に少ないビーム量(毎秒100個以下)での超微細構造測定の開発実験を実施予定であったが、TRIUMFの新しい施設の工事のために延期された。しかし、そのおかげで、超微細構造測定の手法について議論や検討を重ね、実験準備に十分な時間を持つことができ、2種類の手法で、それぞれの特徴を精査できるような開発実験を行うことができた。 当初の予定よりも半年近く遅れて進んではいるが、非常に良い結果が得られたことより、「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
毎秒100個以下のビームでの超微細構造測定を可能にする、という当初の目的を達成することができたが、もっと異なる新しい手法であり、理想的環境下では1 個の粒子を検出すればよい画期的な手法である、レーザー共鳴イオン化法の開発にチャレンジすることになった。2 本の異なる波長のレーザーを同時に照射し、イオン化ポテンシャルを越えて電子を励起させ、イオン化した粒子を電場で分離して検出する方法である。TRIUMFの重要な将来計画の一つのプロジェクトであり、来年度からの5カ年計画にも含まれている。 2017年7月のビームタイムの時に続けて開発実験を実施する予定であった。しかし、新しくTRIUMF側で購入したレーザーの納品が3ヶ月以上も遅れることが判明し、2017年11月まで開発実験は延期された。 このレーザー共鳴イオン化法の開発実験の結果と、今回の2種類の超高感度レーザー分光法の結果をあわせて、収量の少ない中性子過剰核原子を対象とした、今後の超微細構造測定に用いる手法について検討する。これら一連の結果を今後、学会などで発表する予定である。
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