研究課題/領域番号 |
15H03661
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吉村 浩司 岡山大学, 極限量子研究コア, 教授 (50272464)
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研究分担者 |
吉見 彰洋 岡山大学, 極限量子研究コア, 准教授 (40333314)
笹尾 登 岡山大学, 極限量子研究コア, 教授 (10115850)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実験核物理 / トリウム / アイソマー / 放射光 / 核共鳴散乱 |
研究実績の概要 |
本年度は、トリウム229のアイソマー観測に必要な機器の開発を行い、実際の実験環境においてテストを行い、その性能評価を行った。 1) K40の核共鳴散乱の観測およびその寿命の測定: 5mgの塩化カリウム(K40を5.5%濃縮)をペレット状に加工した標的試料を用いて、29.83keVの核共鳴散乱の観測をおこなった。共鳴散乱エネルギーにおいて得られた時間スペクトルでは、プロンプトに続く指数関数的な減少が観測され、約4 nsのK40の半減期が精度よく求められた。現在、詳細な解析を進めており、論文にまとめる予定である。 2)Th-229核共鳴散乱の探索:K40核共鳴散乱と同様のセットアップでTh-229アイソマー回転励起準位(29.2 keV) 核共鳴散乱の探索を行った。核共鳴散乱の信号の観測を行うことはできなかったが、X線照射した際のMCP測定器の応答(時間分解能、バックグランド)についての、有益な知見を得ることができた。 3)真空紫外光集光システムのビームを用いた集光性能:新たに開発した楕円ミラーを用いた集光光学系の性能評価を、Nd:LaF3シンチレータ(ピーク波長~170 nm)にビームを照射することにより行った。真空紫外光のみ感度を有するダイアモンド光電子増倍管でシンチレーション光を検出しながらミラー調整を行うことにより、光学系が設計通りの性能を有していることを確認した。光学系の最適化を行った後、CaF2(Thドープなし)にビームを照射して光電子増倍管で検出を行うことにより、ビーム照射中および照射後のCaF2からの蛍光および燐光(残光)を測定し、ビーム照射中においても真空紫外光領域にバックグランドがないことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実験装置の開発は順調に進んでいる。MCP検出器については期待通りの性能を発揮し、目標としていた50 psの時間分解を達成することができた。一方、トリウム229の核共鳴散乱を観測する際のバックグランドとなる事象も観測され、現在その原因究明と対策を行っている。真空紫外集光システムについては、ビーム環境下での動作を確認することができ、その評価を行うことができ、ビーム照射時に発生する光を遮断するための、シャッタ-の必要性等の改良点も見つかり、現在、その改良を行っているところである。 また、放射光を用いた実験では、X線集光システムを利用することで、より高輝度なX線ビームを利用できることがわかり、実験感度を高めるのに大きな進捗をもたらしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、前年度の成果をさらに発展させて、引き続き以下のような手順で研究課題を推進していく。 1)大面積かつ高速時間応答性能を備えたAPD検出器を開発し、高計数率状況において時間およびエネルギーを測定して核共鳴散乱時のバックグランドの低減を図る。 2)ガラス管で作成したモノキャピラリーを用いてX線を集光するシステムを開発する。X線を標的サイズ0.2 mmまで集光することを目標にする。 3) 従来の標的試料を1.5mmのスポットサイズから0.3mmに集積した標的を開発し、X線集光システムと組み合わせることにより、反応確率を10倍以上に増加させる。 4) 以上の改良を施した後に、放射光X線によるビームテストを行い、トリウム229アイソマー回転励起準位への核共鳴散乱の観測を行い、励起を確実にとらえて、その半減期や励起確率、崩壊幅を正確に測定する。 5) ビーム照射時の遮光用のシャッターを装備する等、真空紫外光分光器の改良を行い、アイソマー準位の脱励起からの真空紫外光の探索を行う
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