研究実績の概要 |
本年度は,高時間分解能X線観測システムの改良,高密度新標的の開発,X線集光システムの改良を行い,Th-229回転励起準位(29.2 keV)の核共鳴散乱信号探索を行った。 (1)高時間分解能X線観測システムの改良: 核共鳴散乱の信号の検出に用いる検出器として,光センサーメーカーと共同で開発した9ch のアレイ状のAPD検出器を用いた。従来の6chのものに比べ,集積度,検出器アクセプタンスを向上させるとともに,バックグランドを低く抑えられた。 (2)高密度新標的の開発: Th-229標的には、東北大学金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センター(金研大洗センター),大阪大学,および理化学研究所の共同研究者との共同研究で開発したものを用いた。直径10mm厚さ0.1mmのベリリウム基板上に電着法でφ0.5 mmのスポットサイズに集積した標的を作成した。これにより従来の標的φ1.5mmに対して,面積比にして9倍の向上を達成した。 (3) X線集光システムの改良: X線集光に関してはビームラインに新しく屈折レンズが導入され,29.2 keVのビームを縦50μm, 横200μm へ集光することが可能となり,従来のキャピラリを用いた集光に比べ,集光効率が格段に改善した。(4)Th-229の回転励起準位の探索: Th-229の回転励起状態として予想されるエネルギー範囲で,50 meVステップでエネルギーを変化させながら核共鳴散乱の信号を探索した。今回初めて,信号の検出が可能なレベルにまで到達し,Th-229の核共鳴散乱の信号の探索が十分に可能であることを確認することができた。
|