研究課題/領域番号 |
15H03664
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
志垣 賢太 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70354743)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | パートン多体系 / 高エネルギー原子核衝突 / 解放クォーク挙動 / クォーク間相互作用 / 宇宙創成 |
研究実績の概要 |
極致エネルギー原子核衝突実験 LHC-ALICE 第二期において、実験クォーク物理学の本来課題である高温パートン相中の解放クォークの挙動解明に向け、焦眉の未解決課題 3 点を決着させる。ALICE 実験第一期において、次期最重要課題として、クォークの初期エネルギー確定、損失エネルギーの再分配過程、クォーク挙動のフレーバ依存性を提示した。本研究では、この 3 点の課題決着により、「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ステップ」にあたる第二段階の跳躍を達成し、更に検出器高度化を含む第三段階の高精度測定への道筋を確立する。 (1)極致エネルギーにおける陽子+陽子衝突実験:ALICE 実験全体と協働して高品質かつ高速の物理データ収集準備を整え、LHC 加速器設計衝突エネルギーに迫る 13 TeV での陽子+陽子衝突実験を推進した。硬散乱過程からの光子、中性中間子、電子の高統計データを収集した。 (2)陽子+陽子衝突データの物理解析:硬散乱事象選択トリガを用いて収集した陽子+陽子衝突データにより、高横運動量領域における中性中間子生成を精査した。異種中間子間のスケーリング則(またはその破れ)から極致エネルギーにおける粒子生成機構を明らかにすべく、原子核衝突における新規現象理解に必要な基盤を精度よく確立中である。 (3)極致エネルギーにおける鉛原子核+鉛原子核衝突実験:人類未到の核子対あたり 5 TeV での鉛原子核+鉛原子核衝突実験を牽引し、高温クォーク相の性質解明に迫る高エネルギー原子核衝突物理学の新時代を拓いた。高横運動量光子と電子の選択測定に加え、硬散乱事象からの光子、ジェット、電子およびこれらの相関の高精度データを収集した。 (4)拡張準備:解放クォーク挙動のフレーバ依存性解明に向けた切札として、前方ミューオン検出器高度化の制御系責任機関として開発建設に正式参加した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALICE 実験において LHC 加速器設計衝突エネルギーに迫る 13 TeV での陽子+陽子衝突実験および人類未到の核子対あたり 5 TeV での鉛原子核+鉛原子核衝突実験を順調に遂行し、硬散乱過程からの光子、中性中間子、電子の高統計データを収集した。高精度光子検出器による高横運動量光子と電子の選択測定に加え、ジェット対検出器によるジェット・トリガを併用した、硬散乱事象からの光子、ジェット、電子およびこれらの相関の高精度データ収集も順調に稼働した。 硬散乱事象選択トリガを用いて収集した陽子+陽子衝突データによる、高横運動量領域における中性中間子生成の精査を順調に推進し、極致エネルギーにおける粒子生成機構の解明に向けて、学術論文投稿に向けた作業を進めている。 解放クォーク挙動のフレーバ依存性解明に向けた切札として、前方ミューオン検出器高度化の平成 31 年導入に向けて、同検出器制御系の責任機関として開発建設に正式参加した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)鉛原子核+鉛原子核、陽子+鉛原子核、陽子+陽子衝突実験および物理解析:LHC-ALICE 実験を継続して推進し、極致エネルギーにおける鉛原子核+鉛原子核衝突および基準測定となる陽子+陽子、陽子+鉛原子核衝突の高品質データを収集し、物理解析を牽引する。 (2)クォークの初期エネルギー確定によるエネルギー損失の定量化:高横運動量光子トリガを用いて初期クォーク散乱の反跳光子を捉えて測定し、個々の散乱クォークの初期エネルギー確定を可能とする。光子-ジェット相関測定により、クォークの初期エネルギーと損失後エネルギーとの同時測定を実現する。高温パートン相通過による解放クォークのエネルギー損失を定量化し、クォーク間相互作用機構の詳細な物理議論を可能とする。 (3)損失エネルギーの散逸と再分配過程の究明:鉛原子核+鉛原子核衝突において高横運動量の光子およびジェットの収量を測定し、陽子+陽子衝突からの変位を用いてクォークのエネルギー損失の情報を抽出する。同時に、低~中横運動量を含む広範な運動学領域の粒子測定を行い、ジェット抑制に引続き発生する損失エネルギーの散逸を観測して、損失エネルギーの再分配先を定量的に明らかにする。高温パートン相中の解放クォークのエネルギー損失、散逸、再分配の機構の統一的理解に迫る。 (4)軽いクォークから重いクォークまでのフレーバ依存性測定と拡張準備:LHC 加速器の高い衝突エネルギーを利用し、チャームおよびボトム・クォークまでを含む中間子の系統測定を実現し、重いクォークのエネルギー損失と再分配を軽いクォークと同様に明らかにする。解放クォーク挙動のフレーバ依存性解明に向けた切札として、前方ミューオン検出器高度化の平成 31 年導入に向けて、検出器制御および検出素子と構造体の接合手法を中心とした開発研究を推進する。
|