研究課題/領域番号 |
15H03665
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
早川 岳人 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (70343944)
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研究分担者 |
梶野 敏貴 国立天文台, 理論研究部, 准教授 (20169444)
静間 俊行 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (50282299)
緒方 一介 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (50346764)
宮本 修治 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (90135757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニュートリノ過程 |
研究実績の概要 |
原子核の磁気的双極子(M1)遷移強度は、超新星ニュートリノ元素合成過程におけるニュートリノ-原子核相互作用の評価のために重要な物理量である。しかし、理論予測に対して測定されたM1強度は非常に小さく、原子核物理学上の問題となっている。10-30MeVのエネルギー以上の領域では、E1 遷移による巨大双極子共鳴が強く存在するため、この領域のM1 強度を計測する有効な手段は未だにない。そのため、我々は直線偏光したレーザーコンプトン散乱γ線による(γ,n)反応で放出された中性子角度分布を計測し、高エネルギー励起領域のM1強度を実験的に求める手法を構築することを目的とする。 実験には、ニュースバルのレーザーコンプトン散乱ガンマ線を用いた。1GeVの電子に1μmの波長のレーザーを入射して、レーザーコンプトン散乱ガンマ線ビームを生成した。ガンマ線の最大エネルギーは約17MeVである。ほぼ100%直線偏光したγ線ビームを鉄等の試料に照射し、(γ、n)反応で発生する中性子を計測する。天然の鉄ターゲットを用いて実験を行い。試料にガンマ線が照射させると、(γ、n)反応が発生して中性子が放出される。中性子は、1m離した位置に設置したプラスティックシンチレーター検出器で計測した。飛行時間測定法でガンマ線と中性子を識別した。レーザーの直線偏光の面を、0度から90度に直線偏光面を変更して中性子の強度を計測したところ、検出器と直線偏光面の角度φに対して、I=a+bcos(2φ)の式で良く再現できることが分かった。さらに、理論的な考察を加えて、Physical Review Cに出版した。 計測した非対称性からE1 遷移強度とM1 遷移強度の割合を導出するために必要な理論モデルの構築をすすめた。核反応に関するスキームはほぼ完成したが、原子核の励起状態の情報が必要なことが明らかになった。また、高輝度ガンマ線による回折の測定、(n、γ)反応によるAGB星におけるs過程の研究も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であるFe-56を試料とした原子核実験については、既にニュースバルのレーザーコンプトン散乱ガンマ線を用いて測定を行った。理論考察を加え、論文をPhysical Review Cで出版した。実験技術については、さらに発展させるために基礎的な試験を行った。理論的には、核反応のスキームがほぼ完成した。核構造に関するスキームは引き続き進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実験技術としては、直線偏光の非対称性を計測する技術はほぼ確立した。計測した非対称性からE1 遷移強度とM1 遷移強度の割合を導出するために必要な理論モデルの構築をすすめ、核反応に関するスキームはほぼ完成したが、原子核の励起状態の情報が必要なことが明らかになった。したがって、実験対象となる原子核ごとに計算する必要があることが判明した。個々の中間状態について、原理的に情報を引き出すことが可能であるが、中重核では準位密度が高すぎるため、既存のレーザーコンプトン散乱ガンマ線のエネルギー幅では分離は現実には無理である。そこで、平均値で議論を進めるか、個々の励起状態が識別が可能な準位密度の低い原子核で実験を行い、理論計算の方法の検証を優先するか検討する。
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