研究課題/領域番号 |
15H03666
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大谷 将士 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (90636416)
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研究分担者 |
岩下 芳久 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00144387)
近藤 恭弘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (40354740)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミューオン / IH-DTL / APF / DAW / RFQ / MCP / BPM / g-2 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は(1)ミューオン異常磁気能率(g-2)精密測定にむけた世界初のミューオン線型加速器の開発、(2)ミューオン加速の実証、(3)ミューオンビームモニターの開発、である。このうち(1)に関して、計算機による線型加速器低速部加速空洞(IH-DTL)の設計を行い、g-2精密測定に必要な低エミッタンス加速(エミッタンス増加<16%)を実現し、結果を論文としてまとめPhysical Review Accelerators and Beams誌で発表(PRAB,19,040101,2016)した。また、中速部加速空洞(DAW)に関しても加速空洞及びビームダイナミクスのデザインを完了し、実験要求を満たす(エミッタンス増加<3%、必要パワー<5MW)ことに成功し結果を国際学会(IPAC、NuFACT)で発表した。さらにアルミ鋳造によるコールドモデル試作器の製作まで完了しており、当初の予定通り次年度に共振周波数測定などを行う。(2)に関しては初段バンチング加速器(RFQ)のオフライン試験を行い、ミューオン加速に必要なパワーでの運転実証及びRF由来の電子・γ線測定を行い、ミューオン加速に必要な性能を持つことを示した。さらに線型加速器前段のミューオン減速機器に関しても実際にミューオンビームを用いてミューオン減速を実証した。これらの成果は日本加速器学会・物理学会で報告している。これらの結果から、次年度に計画しているRFQを用いた世界初のミューオン加速実証にむけた準備が整った。(3)に関してもマイクロチャンネルプレートを用いたビームプロファイルモニターを開発し、2016年3月にミューオンビーム照射試験を実施し、照射ミューオン位置の観測に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の達成度は、当初の想定を超えた。その理由は (1)線型加速器設計に関しては、当初は中速部加速空洞(DAW)の設計・試作機製作のみであった。しかし、DAW設計で培った各種ソフトウェア(CST MW Studio、Poisson Superfishなど)を用いた開発経験を活かし、低速部加速空洞(IH)の設計まで完了し、結果を論文としてまとめPhysical Review Accelerators and Beams誌で発表(PRAB,19,040101,2016)するに至った。 (2)ミューオン加速の実証に関しては、当初はミューオン減速機器の試運転が目標であった。J-PARC加速器のトラブルにより試験日が遅れてしまったが、その間にバンチング加速器(RFQ)の試運転・バックグラウンド測定を完了することができた。さらに減速機器試験に関しても何とか年度内に試験を行うことができ即座に結果を発表し(2016年3月の日本物理学会にて発表)、ミューオン減速の実証に成功した。 (3)ミューオンビームモニターに関してもJ-PARC加速器トラブルにより試験日が遅れてしまったが、その間に紫外光や線源を用いたテストベンチ試験を進め、ミューオンビーム照射試験前に十分な準備を完了し、2016年3月のビーム試験を成功裏に実施することができた。 上記のように、ほぼすべての課題において研究が非常に進展した年となった。
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今後の研究の推進方策 |
世界初のミューオン線型加速器のデザインを完了する。そのために、まず既にアルミ鋳造コールモデル試作機を製作したDAWに関して試験を行う。共振周波数や Q 値など、空洞としての基本的な数値は、ベクトルネットワークアナライザで測定する。電磁場分布は、ビーズ摂動法と呼ばれる、空洞内に導体片(ビーズ)を挿入することにより誘起される周波数変化を挿入位置の関数としてプロットする方法で測定する。既に共同研究者が過去に開発した装置一式を流用することで必要最低限の経費で迅速に試験を開始できる見込みである。さらに、既に基本設計が完了しているIHに関しても、RFカプラや冷却配管の設計を行い、実機スケールを製作できる準備を整える。さらに高統計・高感度でミューオンRFQ加速試験を実施するために、減速ミューオンのプロファイル測定や高収量減速材の検討を行う。既にJ-PARC MLF施設で2016年10月以降にミューオンビーム利用が採択されており、これらの試験を実施できる準備が整っている。
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