研究課題/領域番号 |
15H03670
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
長谷川 雅也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (60435617)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 宇宙背景放射 / 偏光 / 重力レンズ効果 / ニュートリノ質量 / 検出器開発 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続きPOLARBEAR-Iの観測をチリにて継続し、さらなる高精度観測を目指してデータ収集を行うと共に、POLARBEAR-Iのおよそ6倍の感度を有するアップグレードレシーバー「POLARBEAR-2」の開発を進めた。POLARBEAR-1の6倍のおよそ7600個の検出器を配置する焦点面は、大きさが直径38cmと世界最大級となり、焦点面を外部からの熱負荷に打ち勝って如何に冷やせるかが開発成功の鍵となる。 熱負荷の主要な要因として1)光学窓を通して外部から侵入する赤外線、2)検出器の信号線を通して侵入する熱の2つがあげられる。前者に関しては赤外線を効率的に吸収し、かつ伝熱によってクライオスタットに熱を逃がせるアルミナをレンズ等の光学素材に使用する事で対応する。屈折率が高い事による反射でのCMBの透過効率の低下に関しては、溶射の技術を用いた反射防止膜を開発し対応する。熱収縮率の違いによる低温下での破断についてはストレスを抑えるために膜に溝を切る等の処理をして対応した。実際に低温-常温のサイクルを数回行い問題なく使用可能な事を確認した。 信号線からの熱侵入に関しては、信号読み出しの多重度を上げ(8->40)信号線の数の増加を抑える事で対応する。多重度を上げるためのハードウェアに関しては昨年度中に開発を終えており、今年度は実際に本観測で用いるのと同等のプロトタイプ検出器(6インチのシリコン基板に1084個のTESボロメータが搭載されて、POLARBEAR-1とほぼ同程度の感度を持つ)と噛み合わせて熱試験を行い、ボロメータの動作温度(270mK)まで問題なく冷却出来る事と、冷却保持時間が十分である事を確認した。 現在、すべてのシステムを噛み合わせての統合試験を開始している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で述べた通り、POLARBEAR-2に関しては本観測で用いる物と同等のプロトタイプ検出器と読み出し系を組み合わせて冷却試験に成功し、実現に向けた大きなマイルストーンを達成した。また検出器の性能評価を含むレシーバの統合試験を開始した。検出器の性能確認に関しては、ノイズレベル、観測効率の改善のため米国での再製作の必要が生じたために予定と比べて少し遅れが見られているが、並行してPOLARBEAR-2の解析に必要なソフトウェアの準備を進めており、観測開始後のデータ解析を本格化するまでの時間短縮が期待できる。以上の事から、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
H29年度は、最終的に本観測で使用するすべての検出器の製作が完了する予定であり、それらを開発中のレシーバに搭載して、最終的な性能評価試験を実験室にて行う。特に本観測で重要となるパラメータ(ノイズレベル、周波数応答性、応答の角度依存性)に関して要求を満たす事を確認し、さらに検出器を観測可能な状態(常伝導から超伝導への転移端)に設定するバイアスパラメータの調整を行い、観測サイトでの運用法の構築も行う。それらの評価を行うための較正ツールの準備も並行して行う。 性能評価が完了し次第、チリへの輸送を開始し、観測の準備を行って、実際にPOLARBEAR-2レシーバを用いた科学観測を開始する事がH29年度の目標である。観測後は特に重力レンズ起源の偏光Bモードに関する感度が最大となるような観測プランを実行し、まず短期間のデータでPOLARBEAR-1の重力レンズBモードに関する結果の追試を行ったのちに、初年度の観測データを用いた初期観測結果を報告する事を目標とする。
|