研究課題
高強度パルス光が誘電体に照射することにより、物質の誘電的性質が光の周期よりも短い時間で変化することを解明した。光に起因する電子ダイナミクス計算と、チューリッヒ工科大学の実験グループによるアト秒実験を組み合わせることにより、ダイアモンド薄膜に高強度の赤外パルス光を入射するとき、約42eV程度の領域でダイアモンドの誘電的な性質が、赤外光の1周期の中で変化することを実験と計算から示した。42eV付近の領域で、赤外光電場の大きさに依存する吸収の増大が確認され、またその上下のエネルギー領域では赤外光電場よりも少し遅れた時刻で吸収の減少が見られた。計算の内容を分析することにより、この吸収変化のメカニズムが動的フランツ・ケルディッシュ効果によることを明らかにした。また、直線偏光、円変更を含む動的フランツケルディッシュ効果の偏光依存性を考察し、円偏光の場合に効果が消失することを明らかにした。誘電体に高強度パルス光を入射した際に生じる高次高調波発生に関して、時間依存密度汎関数理論による第一原理シミュレーションを行い、αクォーツの場合の結果を分析した。パルス光と物質の相互作用を記述する、光電磁場のマクスウェル方程式と電子ダイナミクスに対する時間依存密度汎関数理論を組み合わせたマルチスケールシミュレーション法に関し、これまで1次元にとどまっていたマクスウェル方程式を2次元・3次元の場合に拡張した枠組みと計算コードの整備を行い、試験計算を行った。フェルミオン多粒子系として関連する原子核物理学において、時間依存密度汎関数理論に基づくシミュレーションを実施し、Z=120原子核の生成に関連する原子核融合過程を調べた。また原子核物理学における時間依存密度汎関数理論のレビュー論文において、電子多体系との比較に関する章を分担執筆した。
2: おおむね順調に進展している
以下に述べるように、研究の成果が得られるとともに新たな取り組みが始まっており、研究は概ね順調に進捗していると判断している。動的フランツ・ケルディッシュ効果に関しては、実験グループとの共同研究により論文を発表するとともに、偏光依存性を明らかにするなど進展が得られた。誘電体に高強度パルス光を入射することで発生する高次高調波発生に関しても、論文発表を行うとともに様々な効果の検証を進めている。また新たな取り組みとして、グラファイトやカルコゲナイドなどの2次元物質に対する取り組みも始めている。我々が開発する新しいシミュレーション法である、光電磁場に対するマクスウェル方程式と電子ダイナミクスに対する時間依存密度汎関数理論を多階層で連結したシミュレーション法に関して、これまで計算機能力の制約から1次元の光電磁場と3次元の電子ダイナミクス計算に限られていたものを、2次元・3次元の光電磁場まで拡張したことは、今後の展開に向けた大きなステップである。また、関連する物質相である原子核物理においても成果が得られており、計算科学手法が分野の垣根を越えて有効であることを示すことができた。
我々の進める時間依存密度汎関数理論に基づく電子ダイナミクスの第一原理シミュレーション法は、特にアト秒科学の分野において極めて有効であることが明らかになっており、さらに多様な実験への応用と現象の解明を目指して、実験グループとの共同研究を進めたいと考えている。これまでは、バンドギャップが光振動数よりも大きい透明誘電体を主に対象としてきたが、さらに金属と高強度パルス光の相互作用も対象とした研究を進めたいと考えている。そのためには、金属表面と光電磁場の相互作用を同時に記述することが必要となり、2次元的に周期性を持ち1次元方向に周期的のない問題を扱う必要がある。このような場合への計算コードの拡張と現象の分析へ進展させたいと考えている。またこの枠組みは、近年発展の著しい2次元的な原子層と光の相互作用を解明する上でも有効であると考えられる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 9件、 招待講演 10件)
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