研究課題/領域番号 |
15H03675
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
有賀 哲也 京都大学, 理学研究科, 教授 (70184299)
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研究分担者 |
八田 振一郎 京都大学, 理学研究科, 助教 (70420396)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 単層物質 / 低次元物質 |
研究実績の概要 |
(1)Si(111)表面上に生成する2原子層厚さの(√7x√3)-rect-In(以下ではrect-Inと略す)について10~300 Kの範囲で電気伝導度の精密測定を行い、このIn層が金属的伝導を示すことを確認した。 (2)rect-In層上に鉄フタロシアニン(FePc)を吸着させると表面を隙間無く埋め尽くす。このときの電気伝導度の温度異存性はやはり金属的電気伝導性を示した。すなわち、FePc層は2原子層rect-Inの金属性を破壊しない。 (3)一方、FePcが吸着したrect-Inの電気伝導を裸のrect-Inのそれと比較すると、(i) 残留抵抗が増大し、その一方、(ii)電子格子散乱が減少する、しかし、(iii)角度分解光電子分光により観測されるフェルミ面には変化が見られない。これらのことは、単層金属物質の電子格子相互作用を分子吸着により制御できることを示している。 (4)Si(111)-In系では、STMや電子回折の定性的観察結果等から、もう一つの(√7x√3)相であるhex-Inが存在すると言われてきた。しかし、これまで hex-In をマクロサイズで作製することはできなかった。本研究では、数mmサイズのhex-Inを再現性よく作製することに成功し、その角度分解光電子分光測定により、hex-Inの2次元フェルミ面を決定した。実験的に得られた2次元フェルミ面は、従来提案されていたhex-In構造に対する第一原理計算の結果とは一致しない。実測された2次元フェルミ面を再現するようなhex-Inの真の原子構造を決定すれば、単層物質の原子配列の違いによる物性変化について新たな知見が得られるものと考えられる。 (5)Si(111)上の1原子層厚さのIn相における相転移について、昨年度につづき電気伝導度による研究を行い、高温相、低温相それぞれのキャラクタリゼーション、一次相転移の機構、相転移を支配するギブズエネルギーバランスに対する表面ステップの局所的効果について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、Si(111)上の金属インジウム単層物質について系統的な研究を展開し、いくつかの重要な成果を得ることができた。とりわけ、研究開始時の予想を超えて、2原子層rect-Inについて、その金属的電気伝導性が分子吸着によって制御できることを見出したことは重要であると考える。マクロな系であれば、金属導線に有機物の絶縁被覆を施しても電気伝導性に変化は生じない。しかし、2原子層程度の単層物質においては、弱く吸着するπ電子系分子の吸着によってさえも、電子格子散乱が変化(大きく減少)するのである。このことは、他の単層物質においてもその電子格子散乱を吸着分子により制御することが可能であることを示唆するものであり、電子格子散乱が超伝導などの物性発現において重要な因子であることを踏まえると、In層に限らずさまざまな単層金属物質の研究において重要な意味を有する新たな発見である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)インジウム単層物質の電気伝導性に対する分子吸着の効果について系統的な検討を進める。フタロシアニン中心金属の違い、有無等により、電気伝導度、電子格子結合に対する影響がどのように発現するかを調べ、これにより、π電子系、d電子、不対電子の有無等による効果を明らかにする。 (2)Ge(111)上の鉛単原子層について研究を広げる。この鉛単原子層はラシュバスピン分裂した2次元自由電子系を有しており、新しいスピン輸送現象の研究素材として注目されている。この鉛単原子層の電気伝導性、ラシュバ分裂等を吸着分子で制御することができれば大きな波及効果があると考える。 (3)Si(111)上のhex-In層について、その原子配列、電子状態、電気伝導特性等を明らかにする。これらをrect-In層と比較し、In単層物質についての理解を深めることを目指す。
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