(1)Si(111)表面上にインジウムを吸着させた時に生成する(√7×√3)-rect構造については既に構造解析がなされており、2原子層構造を有するとされている。もう一つの(√7×√3)-hexについては、その存在を示唆する報告はあったが、構造はおろかその存在も確立していなかった。本研究では、In蒸着量と基板温度を精密制御することにより、再現性よく(√7×√3)-hexを作製することに成功し、この系の2次元フェルミ面を測定した。測定された2次元フェルミ面は、1.4 MLのIn層からなる構造モデルに対する計算結果とよく一致することを確認した。これにより、SI(111)-(√7×√3)-hex-In表面は、本研究者らが以前に発見したGe(111)-(√3×√3)-β-Pbと並ぶ単原子層自由電子金属(世界で最も薄い金属箔)であることを明らかにした。 (2)SI(111)-(√7×√3)-hex-Inは230 K以下で(√7×√7)-Inに相転移し、同時にフェルミ面が消失することを見出した。すなわち、(√7×√3)-hex-Inは低温で金属から絶縁体に転移する。 (3)SI(111)-(√7×√3)-rect-In表面上へのCuPc分子の吸着過程について低速電子回折で検討した。低被覆率においては分子間の斥力が働く。被覆率を上げるとともに隣接分子間距離が減少し、ある閾値まで達すると並進対称性を有する2次元結晶に転移することを明らかにした。 (4)Au/Si(001)において観測される表面状態バンドの状態密度はフェルミエネルギー付近でべき乗則に従って減衰する。よく似た振る舞いは、従来、類似系であるAu/Ge(001)において観測されており、朝永-Luttinger液体性の根拠とされていた。本研究では、Au/Si系のべき乗則的な振る舞いが表面の不規則性によって定量的に説明できることを示した。
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