研究課題/領域番号 |
15H03678
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中山 正昭 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30172480)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロキャビティ / 銅ハライド / 励起子ポラリトン凝縮 / 発光特性 / ポラリトン分散関係 / 非平衡凝縮ゴールドストーン・モード / 発光ダイナミクス / ボソン終状態誘導 |
研究実績の概要 |
1. 銅ハライド(CuBr、CuI、及び、CuCl)を活性層としたHfO2/SiO2分布ブラッグ反射鏡型マイクロキャビティを系統的に作製した。構造評価は、X線回折、原子間力顕微鏡、及び、触針式膜厚計を用いて行った。作製した全ての試料の励起子ポラリトンの基礎特性[分散関係、ラビ分裂エネルギー、離調度、光閉じ込め係数(Q値)]について、角度分解反射分光法から得られたポラリトンエネルギーの入射角度依存性を励起子-フォトン強結合に関する現象論的ハミルトニアンを用いて定量的に解析した。 2. 励起子ポラリトン凝縮に関しては、面内波数ベクトルk=0における下枝ポラリトン(LP)からの発光をプローブとして、励起強度に対する発光強度、発光スペクトル幅、及び、発光エネルギーの閾値的変化を指標として検証し、CuBrマイクロキャビティにおいて、液体窒素温度である77Kにおいて安定的に凝縮が実現できることを確立した。角度分解発光スペクトルの系統的な測定から、CuBrマイクロキャビティにおけるポラリトン凝縮体の分散関係は、k=0近傍ではフラット(拡散性)であり、kが大きい領域ではほぼ線形的な分散性を示すことを明らかにし、非平衡凝縮におけるGoldstoneモードの理論によって統一的に解釈できることを示した。さらに、CuBrマイクロキャビティを試料とした発光ダイナミクスの測定から、ポラリトン凝縮によって発光立ち上がり時間と減衰時間が時間分解能(15ps)以下まで劇的に短くなることを見出した。このことは、ポラリトン凝縮状態において、緩和過程におけるbosonic final state stimulation(ボソン終状態誘導)が発現して発光立ち上がり時間を顕著に短くしていること、及び、LPの固有発光寿命(Q値からの推定値:約0.7ps)が発現していることを反映している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、以下の通りである。 銅ハライド(CuBr、CuCl、及び、CuI)を励起子活性層とした分布ブラッグ反射鏡型マイクロキャビティを独自に作製し、発光特性の観点から、次のことを目的として研究を行う。1. 銅ハライド系マイクロキャビティにおいて、励起子ポラリトン凝縮を実現する。2. 試料作製段階で離調度(面内波数ベクトル=0での励起子とキャビティフォトンのエネルギー差)を変化させてポラリトンを構成する光子と励起子の成分比を制御し、それにより励起子ポラリトン凝縮の諸特性[凝縮密度、ポラリトン再構成(ポラリトン-ポラリトン相互作用による凝縮体分散関係の変化)、凝縮温度]を制御する。3. 励起子ポラリトン凝縮におけるポラリトンの緩和過程(ボソン終状態誘導)、及び、発光寿命について、発光ダイナミクスの観点から明らかにする。 この目的に対して、系統的な試料作製と評価・実験から、CuBrマイクロキャビティにおいて、離調度とQ値を制御することにより(離調度<±30meV、Q>1000)、77Kという比較的高温で励起子ポラリトン凝縮が確実に実現できる条件を確立した。さらに、励起子ポラリトン凝縮体の分散関係が、非平衡凝縮状態におけるGoldstoneモードとして統一的に解釈できることを世界に先駆けて明らかにした。このGoldstoneモード分散関係の観測は、計画時点で予期していなかったことであり、本研究のセレンディピティと言える。以上の成果は、目的1と2の中核となるものである。さらに、発光ダイナミクスに対する励起子ポラリトン凝縮効果に関して、CuBrマイクロキャビティを試料とし、緩和過程におけるボソン終状態誘導と発光過程におけるポラリトン固有寿命の発現を明らかにした。この成果は、目的3の中核となるものである。 以上のことから、研究は概ね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
1. 凝縮が確実に実現できるCuBrマイクロキャビティを対象として、励起子ポラリトン凝縮の制御という本研究課題の観点から、励起子ポラリトン凝縮に対する離調度の効果を明らかにする。最も明確な指標は凝縮閾値に相当する励起強度であり、系統的に離調度を変化させた試料を準備し、基底状態k=0におけるLPの発光強度、発光バンド幅、及び、発光エネルギーの励起強度依存性を詳細に調べる。これにより、凝縮閾値に対する離調度の効果が明らかになる。さらに、フェムト秒Ti:sapphireレーザーとストリークカメラシステムを組み合わせて励起子ポラリトン凝縮体の発光ダイナミクスを系統的に測定し、緩和過程におけるボソン終状態誘導と発光過程におけるポラリトン固有寿命の発現という現象をより明確なものとする。 2. これまでの研究からCuBrマイクロキャビティにおける励起子ポラリトン凝縮を実現するための試料作製条件が確立できたので、その知見に基づいて、CuIとCuClマイクロキャビティにおけるポラリトン凝縮条件の確立を目指す。励起子ポラリトン凝縮を実現するための最も大きな要因は、これまでの研究成果から、離調度がゼロ近傍で光閉じ込め係数Q>1000の試料を作製することである。高いQ値を得るためには、活性層と分布ブラッグ反射鏡の膜厚精度と界面ラフネスを向上させることが必要であり、CuIとCuClマイクロキャビティにおける薄膜作製条件を最適化する。励起子ポラリトン凝縮の検証は、上で述べたLP発光特性の励起強度に対する閾値的変化の観測によって行う。励起子ポラリトン凝縮が実現できた試料を対象に、凝縮体の分散関係を測定し、CuBrマイクロキャビティにおいて発見した凝縮体のGoldstoneモードがユニバーサルなものであるかどうかを検証する。
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