研究課題/領域番号 |
15H03687
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
紺谷 浩 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90272533)
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研究分担者 |
下志万 貴博 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70581578)
大成 誠一郎 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (80402535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 銅酸化物高温超伝導体 / 軌道秩序 / ネマティック秩序 |
研究実績の概要 |
鉄系および銅酸化物高温超伝導体において軌道秩序や電荷秩序が最近相次いで発見され、電荷・軌道自由度の本質的役割にスポットライトが集まっている。特にこれらの電子系で発見された電子ネマティック秩序は、従来の標準的な理論である乱雑位相近似(RPA)や揺らぎ交換近似(FLEX近似)では理解できない。それゆえ、これらの近似理論で無視されている、高次の多体効果(バーテックス補正)を考慮する必要がある。バーテックス補正は電荷・軌道・スピンの3自由度の結合項を与え、これら複合自由度の多彩な協奏効果の源泉となる、大変重要な多体効果である。本研究では新規多体理論である「自己無撞着バーテックス補正法」と「汎関数繰り込み群法」を両輪として、各種強相関超伝導体におけるバーテックス補正の役割を研究する。 今年度は、鉄系超伝導体において普遍的に観測される電子ネマティック秩序に対して、RPAやFLEX近似を超えた理論解析を行った。申請者はまずFeSeにおける磁気秩序を伴わない電子ネマティック秩序を研究し、、Aslamazov-Larkinバーテックス補正を考慮することで、その理論的解明に成功した。さらに、FeSeの電子ネマティック相において角度光電子分光で観測された「運動量空間における符号反転を伴う軌道偏極」を研究し、Aslamazov-Larkinバーテックス補正を無限次まで取り込むことで、その理論的再現に成功した。これらの成果はPhysical Review X、Physical Review Letters、Physical Review Bに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
鉄系超伝導体の電子ネマティックの起源は、この物質群おける重要な未解明問題である。その理解のため、申請者は高次の多体効果であるバーテックス補正を考慮した理論を構築してきた。今年度は、その理論をFeSeに適用し、FeSeにおける磁気秩序を伴わない電子ネマティック秩序の理論的説明に成功した。更に、バーテックス補正の理論を発展させて、FeSeの電子ネマティック相において角度光電子分光で観測された「運動量空間における符号反転を伴う軌道偏極」の理論的再現にも成功した。これらの成果は、鉄系超伝導体における電子ネマティック秩序の起源が、従来の有力候補のスピンネマティック秩序ではなく、軌道秩序であることを深く示唆する結果であり、その後の研究の指針となった。また、バーテックス補正の理論を銅酸化物高温超電導体に適用し、この物質群の擬ギャップ相において最近発見された電荷秩序相の理論的再現にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
鉄系超伝導体におけるバーテックス補正の理論を発展させて、この系の超伝導発現機構の研究を行う。バーテックス補正により発達した軌道揺らぎは、クーパー対の引力相互作用を与えるため、ホール面と電子面で超伝導ギャップが符号反転を持たない「s++波超伝導状態」の起源となる。本研究では、スピン揺らぎと軌道揺らぎを同等に考慮して、鉄系超伝導体の超伝導発現機構を議論する。特に、従来の標準的な近似であるMigdal近似を超えて、裸の電子・ボソン結合定数Uに対するバーテックス補正(U-VC)を考慮した超伝導ギャップ方程式を構築する。軌道揺らぎを媒介とする引力相互作用は、反強磁性相近傍において、U-VCによって著しく増大することがわかっている。本理論により、鉄系超伝導体における超伝導発現機構の研究や、実現されるギャップ構造(符号反転の有無)を研究する。
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