研究課題
本研究は超シャロウバンド物質である鉄系超伝導体FeSeに焦点をあて、その新奇な電子状態とBCS-BECクロスオーバー領域にある特異な量子凝縮相の解明を行うことを目的としている。平成28年度の研究では下記の実績を収めた。1. 異方的マルチギャップ構造と低温高磁場超伝導相における特異な準粒子散乱: ドレスデン強磁場研究所(独国)に滞在し、FeSeにおいて最大20 Tまでの強磁場熱伝導度および熱ホール効果測定を行うことで、この系の異方的マルチギャップ構造と極低温高磁場中の超伝導状態での特異な準粒子散乱の変化を明らかにした。超伝導状態における準粒子散乱の変化は、FeSeの極めて小さなフェルミエネルギーに伴なう大きなスピン偏極に関連して、この系で新奇な超伝導状態が実現している可能性を示唆するものである。2. 電子状態相図: FeSeは約90 KにおいてFe-3d軌道の偏極を伴なった正方晶から直方晶への構造相転移をおこし、ab面内での大きな異方性を生じる「電子ネマティック秩序」を示す。本研究では高圧下物性測定により、ネマティック秩序の消失と超伝導と競合する圧力誘起反強磁性ドームの存在が明らかになった。またSeサイトを等原子価のSで置換することでネマティック秩序を完全に抑制し、FeSe1-xSxにおいて非磁性ネマティック相の量子臨界点が実現されていることをピエゾ素子を活用したネマティック感受率測定を通じて示した。FeSe1-xSxにおけるネマティック量子臨界点では、磁気秩序を伴わずに回転対称性が破れた新しいタイプの量子臨界点が実現しており、今後、ネマティック秩序と超伝導の関係を明らかにすることが重要な課題となる。
1: 当初の計画以上に進展している
FeSeの非常に小さなフェルミエネルギーに起因した新奇超伝導状態について、低温高磁場下での特異な準粒子散乱が明らかになった。また、FeSeの高圧下物性測定では電子状態相図における反強磁性ドームの存在が明らかになり、更に、FeSe1-xSxの純良単結晶開発によってネマティック量子臨界点の物理が明らかになるなどしている。研究は当初の計画以上に進展していると考える。
軌道自由度と電子対形成の関係について、準粒子励起に敏感な熱伝導および比熱の精密測定を極低温において系統的に実施することで、FeSe1-xSxにおける新奇なネマティック秩序と超伝導の関係を明らかにしたい。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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