研究課題
鉄系超伝導体FeSeのネマティック相においては、電子構造は非常に浅く小さなフェルミ面のみで構成される。一方、その超伝導ではBCS-BECクロスオーバー領域にあるような極めて強い電子対形成相互作用が働いており、また、超伝導ギャップ関数は非常に異方的で、純良単結晶を用いた実験では偶発ノードの存在が見出されている。しかしながら、このような極めて小さなフェルミ面において、なぜ非常に異方的で、かつBCS-BECクロスオーバー領域にあるような強い電子対形成相互作用が実現し得るのかは大きな謎であり、この起源を明らかにすることは、鉄系超伝導体の超伝導発現機構の解明に繋がる重要な鍵になると期待される。本年度の研究では、FeSeにおける電子ネマティシティと異方的な電子対形成相互作用の関係を明らかにするために、Seを等原子価のSで置換したFeSe1-xSx系に着目し、熱伝導率、及び比熱を中心とした実験を継続的に行った。特に、ネマティック相から非ネマティック相に渡る広い組成範囲での準粒子励起の変化を系統的に調べ、ネマティック量子臨界点を挟んだ超伝導ギャップ構造の変化を詳細に調べた。その結果、ネマティック相では、電子対形成における軌道選択制が非常に重要であり、Feのd軌道の縮退が解けてネマティシティが僅かでも現れると超伝導ギャップ関数が非常に異方的になることが明らかになった。一方、ネマティック量子臨界点を越えた非ネマティック相の超伝導では、超伝導ギャップ関数がネマティック相のものとは大きく異なることが明らかになった。本結果は、この系の電子対形成において、ネマティック揺らぎの軌道依存性が大きな役割を果たしていることを示しており、非常に重要な結果である [Y. Sato et al., PNAS (2018)]。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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