研究実績の概要 |
テラヘルツパルス発生にはZeTe結晶が広く使われているが,位相不整合や吸収帯の存在によって帯域が制限される。本研究では,最近注目されている気体プラズマの非線形効果を利用した広帯域のテラヘルツパルス光源を製作した。テラヘルツ生成光には現有のフェムト秒レーザー再生増幅システムの出力(800nm,150fs,1mJ)を利用している。非線形結晶(BBO結晶,100μm)によって第二高調波(400nm)を発生させ,これを基本波(800nm)と合わせて空気中に集光することによってプラズマを誘起し,広帯域のモノサイクルテラヘルツ電磁波を発生させることができる。 テラヘルツパルス光源の交換に伴い,放物面ミラーを使ったTHz光学系を組み直した。ZeTe非線形結晶の光整流を利用したEOサンプリング法を用いて,試料透過後のTHz電磁波の超高速時間発展をサンプリングした。得られた時間波形のフーリエ解析から,試料のTHz-ESR過渡吸収スペクトルが得られる。また,極低温冷凍機を組み込み,温度可変テラヘルツフーリエ変換磁気共鳴(FT-ESR)装置を製作した。空気中の水分子による吸収を取り除くため,装置全体を乾燥空気生成装置でパージした。同期させた光チョッパーでTHz生成光をショット毎にオンオフし,ロックインアンプを用いた高感度検出を行った。 反強磁性体NiO(ネール温度TN=523K)において,テラヘルツFT-ESR法を適用し,マグノンによる反強磁性共鳴吸収を観測した。共鳴周波数の温度依存性は分子場理論を用いてよく説明することができた。ネール温度付近で観測された緩和速度の急増は,長距離秩序の消滅で説明できる。また,反強磁性体CoO(ネール温度TN=293K)において,テラヘルツ電磁波の伝播時間の変化から屈折率を求めた。ネール温度付近における格子の寄与からのずれは磁気歪みの寄与であることを明らかにした。
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