研究実績の概要 |
金属絶縁体転移を示すパイロクロア型イリジウム酸化物Ln2Ir2O7において, (1) 金属絶縁体転移機構の解明,(2) 絶縁相の all-in/all -out 型磁気秩序状態の特性究明,(3) キャリア ドープによる新奇物性の創出を目的として,多面的な測定手法(輸送特性,磁化測定,中性子散乱,ミュオンスピン緩和など)と第一原理計算をベースにした理論的手法を連携して研究を行なうことを目的としている。
2016年7月21日九州工業大学にて,代表者および分担者3名が参加した全体ミーティングを行い,研究の現状および今後の研究の展開について議論をした。また,代表者および分担者間の議論および研究打ち合わせは必要に応じて随時行った。
松平はLn=NdおよびYの輸送特性におけるCa置換によるホールドープ効果から量子臨界性について調べた。また,中性子散乱およびミュオンスピン緩和法に用いる多結晶試料の合成を行った。 渡邊はLn=SmおよびNdにおいてμSRを実施し希土類モーメントおよびIrモーメントが長距離磁気秩序状態であることを確認した。第一原理計算から予想されるミュオン位置をもとに双極子磁場計算を行い、NdとIrの磁気モーメントが強磁性的に結合し,SmとIrは反強磁性的に結合していることを見出した。これらの結果は論文として公表した。またCaをドープしたLn=NdのμSR測定を行った。CaをドープによりIrモーメントの磁気秩序状態の方が急速に消失していていく傾向が確認された。富安は海外実験施設を用い、R2Ir2O7 (R = Pr, Nd, Y, Tb) の非偏極・偏極中性子回折データを取得した。標準的なリートベルト解析を完了し、結晶・磁気構造解析に成功した。小野田は第一原理電子状態計算を相対論的なLSDA+U法に基づいて行い中性子散乱の結果に対する理論予測を行った。また,電子相図の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(松平)キャリアドープによる量子臨界性については比熱測定から調べる。また, 理論的な考察についても議論を行う。Ca置換系およびLn=Dyについての単結晶育成は,フラックスや温度条件を試行錯誤しながら育成を行う。 (富安)海外実験施設を用いて得られたR2Ir2O7 (R = Pr, Nd, Y, Tb) の非偏極・偏極中性子回折データについて標準的なリートベルト解析を完了し、結晶・磁気構造解析に成功した。しかし、後一歩の所で海外チームに論文予定の一部を先に出版されてしまった。今後の研究の推進方策として第一理論計算と合わせることで、Ir電子状態の本質に迫ることを目指している。 (渡邊)キャリアドープによる量子臨界性について,ミュオンスピン緩和を用いて相図およびダイナミクスについて調べる。 (小野田)上述の中性子回折の実験結果に対して第一原理電子状態計算からの解明を進める。構造最適化計算から結晶構造のLnサイト依存性を実験と比較吟味し、電荷ギャップ、反強磁性磁気秩序モーメント、U依存性を計算で求め、パイロクロアイリジウム酸化物全般の理論的理解を深める。 全体ミーティングを九工大にて2017年夏頃に開催し,研究の現状報告と今後の展開について議論する。
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