研究課題
金属絶縁体転移を示すパイロクロア型イリジウム酸化物Ln2Ir2O7において,(1)金属絶縁体転移の機構解明,(2)絶縁層のall-in/all-out型磁気秩序の特性究明,(3)キャリアドープによる新奇物性の創出を目的として,多面的な測定手法(輸送特性,磁化測定,中性子散乱,ミュオンスピン緩和など)と第一原理計算をベースにした理論計算手法を連携して研究を行っている。松平はLn=Nd及びYの輸送特性におけるホールドープ効果から量子臨界性について調べた。磁化や比熱測定も行った。また,ミュオンスピン緩和に用いる多結晶資料の合成を行った。渡邊はLn=Nd及びYのホールドープ系のμSR測定を行い,磁気相図を明らかにした。現在,現在、研究結果を取りまとめる論文を執筆中である。また, (Nd1-xCax)2Ir2O7 に関する強磁場μSR測定を実施し、Nd・Irスピンの動的性質を調べ、Ndスピンが磁気転移点よりも高温側より揺らぎのスローイングダウンを起こしていることを明らかにした。富安は中性子回折データから磁気構造を解析する手法の開発を進め、実測したLn2Ir2O7の中性子回折データに適用することに成功した。この手法は、得られた実験データに対する真の解を数学的に探索・保証する画期的なものである。小野田は,スピン軌道祖語作用の強いIr5d電子におけるノンコリニア磁性秩序の解析手法を開発を行った。この場合に中性子磁気弾性散乱パターンを正しく解析するには、孤立原子に対するDirac-Hartree-Fock近似を越えたBloch波動関数そのものを用いた磁気形状因子を採用する必要があると考えられる。そこで、OpenMX第一原理計算パッケージに磁気形状因子の計算プログラムを現在開発した。これまでに最初の試行としてbcc鉄に対する実験結果を極めてよく再現することがわかった。
3: やや遅れている
μSR測定に関しては本年度の研究計画に流れに沿った試料供給およびμSR実施の機会を得ることができたため,予定通りに進んでいる。しかし,重希土類の単結晶育成には成功しておらずスローダイナミクスなどの研究は遅れている。また,前年度に海外での中性子研究により結晶・磁気構造の標準的なリートベルト解析を完了したが、後一歩の所で先に海外チームに一部を出版されてしまったことを踏まえ、様々な別の方策を模索した。また,開発した磁気形状因子の計算プログラムについて,磁気モーメントがbcc Feよりも小さいfcc Niについて実験結果を再現できるよう改善している。以上から,全体としてはやや遅れているが,磁気形状因子の計算プログラムなどの開発により,次年度以降に従来の解析を超えた新しい研究成果を出すことが可能となる見込みである
松平は重希土類の単結晶育成に取り組み,また,ホールドープ系の非フェルミ液体的挙動について詳細な研究を行う。渡邊は1) (Nd1-xCax)2Ir2O7 とY2Ir2O7に関する強磁場μSR測定を進め、Irスピンの動的性質を明らかにする。2) (Y0.95-xCu0.05Cax)2Ir2O7における高時間分解μSR測定を実施、密度汎関数法を用いた解析を行うことによって、Ir磁気モーメントのホール濃度依存性を直接的に明らかにする。3) (Eu1-xCax)2Ir2O7系試料のμSR測定を開始し、4f電子を含みつつも磁気モーメントがない状況下におけるIr磁気モーメントのホール濃度依存性の研究を開始する。4) ミュオン位置計算を進め、実験結果と比較対象することによりIrおよびNd磁気モーメントホールドープ依存性の定量的結果を得る。富安は現在、偏極中性子散乱の論文執筆中である。小野田はfcc Niについて十分な改善が見られた後に、イリジウム酸化物の計算に移行する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 8件、 招待講演 4件)
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