研究課題
BiS2 系層状超伝導体において、フラックス法を用いた純良単結晶育成とその基礎物性測定を進めた。Ce系では、Ce4f電子の結晶場準位構造をほぼ決定することができた。これにより、「非従来型の量子臨界的挙動」を示す4f電子の基底状態が確定した。また、OサイトのF部分置換により発現する強磁性的異常が、顕著な磁気異方性を持つことを見出し、本系が持つ本質的な性質であることが明らかとなった(磁性不純物によるものではない)。Nd系では、4f電子がCe系と類似して局在的状態にあることがわかった。また、結晶場効果に起因して発現する「温度依存する磁気異方性」を見出した。極低温では、Ndの結晶場2重項基底状態が、重い電子状態で見られるような比熱異常をもたらすことを発見した。本研究により育成された純良単結晶試料を用いて、国内外における多くの物性測定グループとの多方面からの共同研究も大きく進展した。CeO1-xFxBiS2単結晶のX線吸収分光と共鳴光電子分光の測定からは、Ce4f電子が中間価数状態にありつつも局在していることと、それがBi-6pz軌道と混成していることが明らかとなった。これにより、極低温領域で非従来型の量子臨界的挙動を示すCe4f電子状態の基礎的理解が進んだ。また、Eu3F4Bi2S4単結晶のX線吸収分光と角度分解光電子分光ARPESの測定から、Euイオンが中間価数状態にあり、BiS2層にキャリアがドープされており(Biサイト当たり0.23個の電子)、X点に他のBiS2系と同様なフェルミポケットが存在することが明らかとなった。空間分解ARPESにより、マイクロメートルスケールでEu価数が均一であることが確認された。
1: 当初の計画以上に進展している
フラックス法を用いた純良単結晶育成とその基礎物性測定が順調に進み、当初計画していたCe系とNd系の両系の4f電子状態の解明が大きく進展した。特に、Nd系において、「温度依存する磁気異方性」と、極低温領域における「重い電子状態で見られるような比熱異常」を発見したことは、大きな進歩である。本研究により育成された純良単結晶試料を用いて、国内外における多くの物性測定グループとの多方面からの共同研究においても重要な発見があった。放射光を用いた実験から、Ce系とEu系において、4f電子状態についての基礎的理解が大きく進んだ。また、ヘリウム3冷凍機と断熱消磁冷凍機の両者を組み合わた、極低温領域の物性測定実験の効率化のための測定装置の整備も、順調に進んだ。
本年度に得られた成果と課題を考慮しつつ、さらに発展させる方向で、BiS2系超伝導体の特異な電子状態の究明と探索を進める。極低温領域の比熱測定により見出したCe系の「非従来型の量子臨界的挙動」とNd系の「重い電子状態で見られるような比熱異常」について、比熱に相補的な情報を与える磁化などの他の物理量の測定を進め、この現象を多面的に調べる。Nd系の比熱異常は、類似現象が銅酸化物系で観測されている。両者を比較しながら、本現象の機構解明を目指す。Prは非クラマースイオンであるため、上述のCeやNdとは結晶場基底状態の性質が質的に異なるはずである。Ce系やNd系と比較しながら、Pr系の基礎物性測定へと研究を拡張する。以上の課題解決のために、育成された純良単結晶試料を用いて、国内外における多くの各種物性測定グループとの多方面からの共同研究も推進する。
新規超伝導体の母物質CeOBiS2において、非従来型の量子臨界的挙動を発見したことを紹介する記事を掲載。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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