研究課題
本研究は、有機磁性体が理想的な量子スピン系を形成することに着目し、様々なスピン空間構造の構築と量子特性の解明を目的として行っている。本年度は、多次元磁気格子における量子特性に着目し、π共役系の制御を利用した物質開発を行った。合成した新物質について単結晶構造解析を行い、その磁気モデルを分子軌道計算から考察した。単結晶試料について低温磁場中における物性測定を行い、磁気モデルに基づき解析し、量子磁気状態を考察した。具体的な成果を以下に記す。(1) ラジカル基と隣接するフェニル基の2,6位にハロゲン原子を置換することで分子内に大きな二面角を導入し、多次元磁気格子の合成を行った。具体的には、1,3,5-トリフェニルフェルダジルの3位のフェニル基のハロゲン化を行った。2-クロロ-6-フルオロフェニル誘導体は、強磁性鎖が反強磁性的に連結された二次元蜂の巣格子を形成することを以前報告したが、本研究では、さらにフッ素原子を導入することで分子間配置を変化させた。磁気相互作用の符号を変化させることに成功し、反強磁性蜂の巣格子の合成に成功した。二次元磁気格子の中で最小の最近接スピン数3を持つ量子磁性体としての特質を、低温磁場中磁化・熱測定から明らかにした。(2) 拡張されたπ共役系としてビフェニルに着目した。ビフェニルで2つのラジカル基を連結したビラジカルを合成した。ビフェニルにフッ素原子を複数置換することで、ラジカル基との間の静電反発を誘起し、分子内に大きな二面角を導入した。これにより、分子内および分子間磁気相互作用を利用した三次元蜂の巣格子を実現することに成功した。磁化および熱測定から、磁場中量子磁気状態の観測に成功した。
2: おおむね順調に進展している
有機ラジカル磁性体の分子設計において、π共役系を制御することで、スピン空間構造の次元性を制御できることを実証することができた。多次元磁気格子を選択的に合成し、これら多次元反強磁性体が、低温磁場中において量子効果を発現することを実験的に明らかにすることができた。ここで得られた知見を元に、今後、量子磁気状態を詳しく考察することが可能となったため。
この二年間で、種々の磁気格子を実現するための分子設計指針を導出することができた。磁気格子の磁気相互作用をわずかに変調させる分子設計が進行中であり、磁気格子特有の量子磁気状態を今後詳しく調べてゆく。次近接相互作用による磁気的競合が磁気状態に与える効果を含め、磁場中における量子磁気状態の詳細を明らかにしてゆく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://www.p.s.osakafu-u.ac.jp/~yhoso/index.html