我々が06年に発見したポジトロニウム(Ps)のスピン転換反応は、角運動量が0のs波散乱では禁制であることを利用し、100ミリ電子ボルト以下の超低エネルギーPs-原子散乱過程を解析した。陽電子消滅放射線の同時計数装置を構築し、希ガス中のPs消滅率および運動量移行断面積を求めて部分波解析を行い、Ps-Xe散乱の散乱長をボーア半径の2.06倍と求めた。これは、散乱を支配する長距離力は引力(ファンデルワールス力)であるが、Xeのポテンシャルは全体としてPsに斥力を及ぼすことを意味する。この結果は定性的には理論と一致するが、定量的には20%程度の違いがあり、理論・実験の両面から更なる検討を要する。
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