研究課題/領域番号 |
15H03705
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 歌子 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (20359087)
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研究分担者 |
早坂 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所量子ICT先端開発センター, 研究マネージャー (10359086)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / イオントラップ |
研究実績の概要 |
平面型のトラップ電極で、イオンの位置が等間隔になるトラップポテンシャルの導出と、そのポテンシャルを生成し且つトラップのための複数の条件を満たす電極配置の設計を行った。また新規トラップ実験のためのレーザー光源を整備し、トラップ電極を実装した。 従来のイオントラップの閉じ込めのポテンシャルは2次関数型で、イオン間のクーロン相互作用を考慮したイオンの平衡位置はイオン列の外側にいくほど間隔が広くなる。等間隔性を確保するためのポテンシャルについては未知であったため、初めに少数個の場合として4個のイオンが等間隔になる場合について検討したところ、4次関数が適していることがわかった。そこで4次関数型のポテンシャルを生成するための電極配置を設計した。 さらに多数個の場合として100個以上のイオンについても、4次、6次など高次の関数型を仮定したときのイオンの平衡位置をシミュレーションによって求めたところ、単一の次数の関数では、4次関数の場合に等間隔性が良くなることがわかった。 そこで4次関数型のポテンシャルを形成し、且つ、トラップ条件を満足する電極配置と印加電圧を求めた。また理論的なトラップ条件以外にも、電極実装では多くの条件を満たす必要がある。印加電圧や配線が最適になるように詳細な検討を行った。 またイオンの等間隔性の評価についても検討し、Bragg反射を用いる方法よりも、光の定在波とイオン配列の相互作用を用いる方が厳密に評価できるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
等間隔配置のためのトラップポテンシャルの導出では、まず初めに少数個の場合として4個のイオンについて検討したところ、4次型の関数が適していることがわかった。そこでこのようなポテンシャルを生成するための電極配置を設計し、数値解析により検証した結果、数百Vの印加電圧が必要であることが新たな知見として得られた。そのままトラップを実装した場合、絶縁破壊によるトラップの不可逆的な破壊の可能性が明らかになった。そこで所望のポテンシャルを生成できるだけでなく、数十V程度の印加電圧で動作するように電極配置の変更を行った。 多数個のイオンについては、100個以上のイオンが4次関数、6次関数、など高次の関数で表されるポテンシャルの場合の平衡位置をシミュレーションによって求めた。その結果単一の次数の関数では、4次関数の場合に等間隔性が最もよくなることがわかった。 イオンの等間隔性の評価では、Bragg反射を利用する方法が考えられるが、さらに検討を進めていくうちに、光の定在波とイオン配列の相互作用を用いれば、より厳密に評価できることがわかった。この方法ではカルシウムイオンの2S1/2-2D5/2遷移に相当する波長729nmの光共振器を用いて、定在波中にイオン列を配置する。 以上のように、100個以上のイオンに対応するポテンシャルを求めたこと、数値解析による検証によって絶縁破壊を起こさない現実的なトラップ電極が設計できたこと、Bragg反射を用いる方法よりも厳密な等間隔評価法を考案したことなどから、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
作製したトラップ電極でカルシウムイオンを捕獲・冷却実験を行う。まずは簡易な等間隔性の評価のために高感度カメラによるイオンの画像を取得する。実際のトラップ電極においては理想的なポテンシャルだけでなく、浮遊電場による影響も予想される。取得したイオン画像から、イオン間隔の測定値が設計値からどれだけずれているかを検出すれば浮遊電場の大きさを見積もることができる。浮遊電場の大きさの見積もりと、これを補正するための方法について検討する。必要な場合は新たに浮遊電場補正用の電極を、電極の個数、形状、配置を検討して追加する。さらにそれらの多数の電極を操作するための制御系や、電気的ノイズ低減のための回路系を構築する。 イオンの等間隔性の評価では、Bragg反射を利用する方法が考えられるが、光の定在波とイオン配列の相互作用を用いれば、より厳密に評価できることがわかった。この方法ではカルシウムイオンの2S1/2-2D5/2遷移に相当する波長729nmに共鳴する光共振器を用いて、定在波中にイオン列を配置する。そこで光共振器を組みこんだトラップ電極を設計する。平面型のトラップ電極に光共振器を組み込んだ例はこれまでになく、また光共振器用のミラーは誘電体であることからトラップポテンシャルを乱す可能性があるため、シミュレーションによってトラップポテンシャルを解析しながら進めていく。さらに2S1/2-2D5/2遷移の確率を定量的に評価するための予備実験を行う。
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