研究実績の概要 |
29年度は前年度の数値計算を更に推し進め局所的刺激と大域的刺激による膜のダイナミクスの研究をすすめた. 局所的刺激による膜のダイナミクスの研究では,膜がラフト構成脂質とそれ以外の脂質,GPI(G粒子)の3成分からなる系を考えている.29年度は,生体膜と同程度の密度で存在するG粒子集団のダイナミクスを調べた.G粒子群は,流体力学的な流れの揺らぎにより拡散運動を繰り返しながら,2粒子クラスタ(ダイマー)の形成と解消を繰り返していること,また,2つのダイマーの会合によるテトラマーの形成と解消も起こり得ることが分かった.この一時的なクラスタ形成には,膜の脂質組成とG粒子との相互作用と組成の揺らぎとの競合が決定因子となっていることを明らかにした.これは先行実験で報告されている有限時間のダイマー及びテトマラマーの存在を支持するものである. 大域的刺激に対する膜の応答ダイナミクスの研究では,流体力学効果を取り入れように拡張し,システムサイズの大きな2次元系の数値シミュレーションを行った.大規模な2次元系や3次元系の計算では非現実的な計算時間が必要となることが問題であったが,並列計算化を推し進め高速化を実現し,比較的現実的な時間で実行可能となった. また,膜近傍にNaOH溶液を注入する位置を変化させた場合の変形の成長, 減衰の違いを調べた. 注入位置が膜からある程度遠い場合,水酸化物イオンが濃い位置に応じて突起状の変形の突起部の最大長は大きくなり, 減衰に時間を要するようになる.NaOH水溶液による膜への大域的刺激では「イオンの移流と拡散」と「膜変形」の結合がダイナミクスを支配していることを明らかにした.
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