細胞は、必要に応じてその力学的性質を変化させて、多彩な機能を果たす。ガラスやゲル等の単なる“モノ”の性質を変えるには、その物質や構造を作り換える必要があるが、細胞のような“生き物”のダイナミックな柔軟性・順応性を説明するためには、もっと容易にその性質を変えられる仕組みが必要である。細胞の中身はとても混み合っていて、さらに、モータータンパク質が生み出す力によって掻き乱されている。したがって、混み合いや掻きまぜによって、細胞の力学的な性質が大きく変化するのであれば、そこに“モノ”とは異なる“生き物らしさ”が生まれる可能性がある。そこで、混み合いと掻きまぜの影響を調整した試料の力学的性質を比較検討して、生き物らしい性質が生まれる仕組みを明らかにした。 まず、細胞の膜を壊して中身だけを取り出した細胞抽出液を用意し、掻きまぜの影響を除去した状態で、この細胞抽出液に含まれる中身の濃度を変化させながら力学的性質を測定した。すると、わずかな濃度の増加で粘性率が急激に上昇(発散)し、固化することが分かった。驚くことに、抽出された細胞の種類に依らずにヒトもバクテリアも、卵細胞も組織細胞も同じように変化して、生きた細胞内の濃度(~300mg/ml)よりも低い濃度で固化することも分かった。 生きた細胞も抽出液のように固まってしまうと、細胞内部で必要な物質を合成して、必要なところに送ることが出来ない。そこで、中身の濃度を変化させながら生きた細胞の力学的な性質を計測して、生きた細胞も本当に固まってしまっているのか調べた。抽出液と内容物は全く同じであるにもかかわらず、抽出液とは異なり、生きた細胞内部は流動性を保っていた。また、中身の濃度と粘性率の間の関係性も細胞抽出液とは全く違いました。これを詳しく解析した結果、生きた細胞と抽出液の違いを生み出す原因が、細胞内部の掻きまぜにあることが分かった。
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