研究課題/領域番号 |
15H03711
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
加藤 直 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (30142003)
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研究分担者 |
川端 庸平 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (50347267)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソフトマター物理 / 界面活性剤 / X線小角散乱 / 光散乱 / レオロジー / リオトロピック液晶 / 膜 / ベシクル |
研究実績の概要 |
界面活性剤ラメラ相がずり流動場によりオニオン相に転移する現象は、多くの研究者の注目を集めているが,オニオン相の形成条件や転移機構については依然として不明の点が多い。我々は最近,非イオン界面活性剤C14E5と水の2成分系において,ずり流動場下の温度変化に伴うリエントラント転移を初めて見出し,さらに高ずり速度領域において,長距離配向秩序を持つオニオン相の存在を示唆する結果を得た。そこで,本研究では,ずり応力/小角光散乱同時測定(rheo-SALS)と高輝度X線ビームを用いたrheo-SAXS測定による中間構造の解明と,長距離配向秩序形成の条件および機構の解明を目的とした。 28年度は、① 27年度に製作したSAXS/SALS共用の少量試料用二重円筒セルを,高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設(PF)に設置して,rheo-SAXSの性能試験を行った。また大学において,同じセルを用いたrheo-SALS装置の製作および性能試験を行った。② 27年度に作成したC14E5/水系の温度-ずり速度相図に基づき,上記のセルを用いて目視観察を行った結果,長距離配向秩序が形成されるずり速度領域ではマクロ相分離が起こることがわかった。③ PFの高輝度ビームを用いて行ったrheo/SAXS測定により,長距離配向秩序構造の立体構造を推定した。またずり速度上昇に伴って長距離配向秩序構造が流動方向に伸び,さらに配向したラメラ構造に近づくことがわかった。④ 低ずり速度側のラメラからオニオンに転移するずり速度近傍において,一定温度下でずり速度を上昇させてrheo-SAXS測定を行った結果,shear-thickening領域が2つ観測され,その間に比較的広いずり速度領域でshear-thinning領域が存在すること,これらの領域においてSAXSの回折強度が大きく変化することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度当初の計画で予定していたのは次の4点である。(1) 製作した二重円筒セルを,放射光科学研究施設(PF)のBL-15A2に設置してrheo-SAXSの性能試験を行うと共に,大学の実験室において,同じセルを用いたrheo-SALS装置の製作および性能試験を行う。(2) 27年度に作成した温度-ずり速度相図に基づいて,長距離配向秩序形成条件の検討を行うと共に,長距離配向秩序形成とマクロ相分離との関係を明らかにする。(3) 高輝度X線ビームを用いたrheo-SAXS測定を系統的に行い,長距離配向秩序を持つオニオン相の立体構造の解明を目指す。(4) C14E5にC14E4を混合することにより,クラフト温度とラメラ相の温度領域を調節し,高ずり速度領域においても上部・下部両方の転移が観測できる組成を探索する。 成果概要の①~③に示したように,(1)~(3)については年度内にほぼ達成することができた。(1)については水を試料とした性能試験により低トルク域の測定限界を確認し,また,同一のセルでSAXSとSALSの両方を測定可能であることがわかった。さらにC14E5/水系(50 wt%)において,一定ずり速度(3 s-1)下で温度を上昇させてrheo-SALS測定を行い,温度変化に伴うラメラ→オニオン→ラメラ転移を,マイクロメートルスケールでも確認することができた。(2)については,長距離配向秩序形成がマクロ相分離と密接に関係していることがわかった。(3)については,これまで未解明であった長距離配向秩序構造の立体構造を,ある程度まで推定することができた。(4)については年度内に着手できなかったが,これは年度当初には予想していなかった成果概要④の結果が得られたためである。この結果ラメラ/オニオン中間構造を解明する上で非常に重要と考え,対応するrheo-SAXS測定を行うことに方針変更した。
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今後の研究の推進方策 |
27年度,28年度の研究成果に基づき,29年度は以下の4点を推進していく。 (1) 低ずり速度領域におけるラメラ/オニオン中間構造の推定:成果概要の④で述べた測定により得られたradial配置とtangential配置におけるSAXSの回折強度の方位角依存性を詳細に解析することにより,shear-thinning領域で形成される中間構造の推定を行う。また,同じ温度・ずり速度領域においてrheo-SALS測定を行い,SAXSから推定されるnmスケールの構造に基づいて,マイクロメートルスケールの構造を推定する。 (2) オニオンサイズの温度・ずり速度依存性の決定:28年度に一定ずり速度下で温度を上昇させて行ったrheo-SALS測定の結果を解析することにより,オニオンサイズの温度依存性を求める。また,一定温度下でずり速度を変化させてrheo-SALS測定を行い,オニオンサイズのずり速度依存性を求める。 (3) オニオンの弾性エネルギーに基づくリエントラント転移の要因解明と中間構造の検討:我々が以前導出した多面体型オニオンの弾性エネルギーに対する表式は,オニオンサイズをパラメータとして含んでいる。(2)によってオニオンサイズが実験的に決定されれば弾性エネルギーの温度依存性を見積もることが可能になるので,これに基づいてリエントラント転移の要因解明を試みる。また(1)のラメラ/オニオン中間構造についても弾性エネルギーの表式の導出を試みる。 (4) 長距離配向秩序とラメラ/オニオン中間構造の関係:成果概要③は,高ずり速度領域における測定により得られたもので,長距離配向秩序の形成が,ずり速度上昇に伴うオニオンからラメラへの転移に関係していることを示唆している。この配向秩序構造が形成され始めるずり速度を調べ,成果概要④の中間構造との関係を調べる。
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